◇SH0422◇銀行員30年、弁護士20年 第59回「銀行員と弁護士との違い」 浜中善彦(2015/09/11)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第59回 銀行員と弁護士との違い

弁護士 浜 中 善 彦

 

 銀行員等のいわゆるサラリーマンと弁護士とは、理念的に大きく異なる点がある。西欧においては、職業という語について、生活の手段を提供する他の職業(Occupation)とは区別して、専門職(Profession)という観念がある。プロフェッションとは、医師、聖職者そして法曹を意味する。そして、このプロフェッションは、中世ヨーロッパの大学の古典的学問分野に対応しており、中世ヨーロッパの大学の学部の中心であった。すなわち、医学部、神学部、法学部がそれである。

 

 プロフェッションといわれる医師、聖職者及び法律家にはある1つの共通点がある。それは、いずれも、何らかの形で人間の持つ悩みの解決に奉仕する職業であるということである。医師は肉体的悩みの解決、聖職者は精神的な悩みの解決がその本来の任務である。法律家は、人間関係から生ずる紛争の解決をその任務とする。

 

 人間の悩みの解決に奉仕するということは、逆に言えば、他人の悩みを契機に生計の資を得るということであるから、この3種の職業は、ともすると醜業に転落する危険性があるということでもある。
 事実、最近の弁護士懲戒事例の頻発は、そのことを例証しており、それに対する対応が弁護士会の重要課題となっている。平成26年10月11日付朝日新聞夕刊によれば、国民生活センターに寄せられた、弁護士に関する相談件数は平成16年度の676件から平成25年度には1,864件と3倍近くになり、弁護士会が懲戒処分にした数も、平成16年の49件が平成25年には98件と倍増したと報じられている。

 

 銀行員から弁護士になっても、それほど大きな違和感はない。少なくとも、仕事における自由度や経済的な面等では、それほど大きな違いがあるとは思えない。要求される能力においても、大差ない。むしろ金銭の管理や日常業務の仕方を見ると、銀行の方がはるかに厳しいと感じることがある。入行して間もないことだったから50年も前のことであるが、支店の得意先課の若い行員が、取引先から現金3万数千円を預かった。銀行の規定では、時間外に取引先から預かった現金は必ずノートに記帳のうえ、役席者保管というルールだったと思うが、その行員はうっかりしてその手続きをしないで、自分の机の引き出しに仕舞ったままにした。結果、その行員は懲戒解雇になった。あまりに厳しい処分だったため驚いた。そのため、今でも記憶にあるのである。今思うと、裁判で争った場合、懲戒はやむを得ないとしても、懲戒解雇は厳しすぎるとして解雇無効になるのではないかと思うが、銀行の場合、金銭管理についてはそれくらい厳しかった。それを思うと、弁護士の金銭管理についての認識はかなり甘いように思われる。事実、平成23年から24年にかけて、弁護士による巨額の詐欺事件や横領事件が相次ぎ、その後も横領等の事件が頻発したため、日弁連では平成25年に「預り金等の取扱いに関する規程」を制定し、同年8月から施行した。

 

 職務の遂行やその責任等においては、銀行員と弁護士とで大差はないように思う。しかし、プロフェッションとしての弁護士とオキュペイションとしてのサラリーマンとは決定的な違いがある。それは、弁護士には、他の職業よりも高い倫理感と正義感が求められるということである。と同時に、人に対する優しさと思いやりの心は、必須の要件であると思う。

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