ベトナム:新・出入国法の施行~ビザの取扱い等に関する変更
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 川 幹 久
ベトナムに入国する際の査証(ビザ)の取扱いなどについて定めた「ベトナムにおける外国人の出入国、乗継ぎ、居住に関する法律」(法律第47/2014/QH13号。以下「新出入国法」という)が2015年1月1日から施行されている。新出入国法では、外国人出張者や旅行者が短期間のうちにベトナムに複数回入国する場合のビザの免除や、ベトナムでの駐在を開始する駐在員のビザなどについて、従前とは異なる取扱いを規定している。本稿では、新出入国法によってこれまでの取扱いが変更される点のうち、特に実務に与える影響が大きいと思われるものについて紹介する。
1 ビザ免除要件の変更
ベトナム政府は、日本を含む複数の国の外国人に対して、ベトナムでの滞在期間が15日以内の一定の場合、ベトナムへの入国・滞在につきビザの取得を免除している(一方的査証免除措置)。従前は、かかる免除措置を受けるためには、入国時のパスポートの残存期間が3か月以上あることが求められていたが、新出入国法では、①入国時のパスポートの残存期間が6か月以上あることに加え、②前回のベトナム出国から30日以上経過していることが求められる。短期間(30日以内)のうちにベトナムに複数回出張するケースや、旅行でベトナムに立ち寄ったうえで例えばカンボジアなどの近隣諸国を訪問し、30日以内に再度ベトナムに入国するようなケースは実際にも少なからず目にするが、今年1月1日以降は、こうしたケースではビザの免除は受けられないことになるため、注意が必要である。
2 ビザの目的変更の禁止~赴任前に労働許可証取得の必要
従前は、実務では、外国人駐在員の多くは、3か月有効のビザでベトナムに入国し、ベトナムで就労準備をしつつ労働許可証取得の申請手続きを進め、労働許可証が取得できた段階で、就労目的の一時居住カード(Temporary Residence Card)を取得してそのままベトナムに滞在し就労することが多かった。かかる実務が行われていた背景には、労働許可証の取得に月単位での時間がかかることが一般的で、人事異動の発令後タイムリーに現地入りし、準備を進めるためには、事実上かかる実務によらざるを得なかった事情が存在する。
新出入国法は、従来の上記実務を今後は認めないことを企図しているものと考えられる。すなわち、新出入国法では、ベトナムに入国・滞在する目的を従前以上に細分化して規定し、ビジネスのために入国する場合であっても、例えば、ベトナム国内企業との取引の目的で入国・滞在するときと、ベトナム国内で就労する目的で入国・滞在するときを別の目的として峻別し、別の種類のビザを発行することとしている。その上で、ベトナム国内での就労目的のビザを取得するためには、あらかじめ労働許可証を所持していることを要求しつつ、(ベトナム国内に滞在しながら)ビザの目的を変更することはできないとしている。その結果、ベトナム国内での就労目的でベトナムに入国する場合、あらかじめ労働許可書を取得した上で、ベトナム国内での就労目的のビザを申請・取得し、その後ベトナムに入国する必要が出てくると解される。
実際にベトナム当局も、新出入国法の下では、従前の運用上認めていた上記実務は認めない意向であることを表明している。在ベトナム日本大使館によれば、ベトナム当局は、今後ベトナム国内で就労する外国人は、概要、以下のステップで各手続を進め、まず労働許可証を取得した後に、ベトナム国内での就労目的のビザを取得することを求めている(http://www.vn.emb-japan.go.jp/index_jp.html 参照)。
① ベトナム国内の現地法人(又は日本の派遣元企業から委任を受けた者)は、管轄当局であるベトナムの地方労働局に対し、労働許可証の取得申請を行う。
② 労働許可証の取得後、管轄当局であるベトナム出入国管理局に対し、就労目的のビザの許可申請を行う。
③ ベトナム出入国管理局は、就労目的のビザを許可する場合、在日ベトナム公館(ベトナム大使館及びベトナム総領事館)に対し、ビザ発給許可通知を行う。
④ 上記許可通知を受けた在日ベトナム公館において、ビザ申請者に対しビザが発給される。
労働許可証の取得に要する期間が格段に短縮されたという事情は、少なくともこれまでのところ聞かれない。そのため、新出入国法による上記運用の変更によって、人事異動の発令後タイムリーに現地入りできない状況が作出され、実務に多大な影響が出ることが懸念される。他方で、新出入国法が今年1月1日からすでに施行されているにもかかわらず、同法が規定する各手続が具体的にどのように運用されるのかについて定めた、ガイドラインとなる細則はいまだ出されていない。今後ベトナムでの駐在を開始する従業員をベトナムに入国させるにあたっては、常に最新の情報を入手した上で、時宜最適とされる方法をとる形で対応せざるを得ない状況がしばらく続きそうである。