銀行員30年、弁護士20年
第12回 管理者の仕事
弁護士 浜 中 善 彦
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八重洲口支店での融資課長経験は約3年であったが、管理者としては、優秀な部下行員に恵まれた。次長(副支店長)、支店長も立派な人たちであり、信頼をしてもらった。お蔭で、私のところを通れば稟議はそのまま決済されたので、部下もその点は安心して仕事ができたのではないかと思う。
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課長という管理職としていつも気を付けたのは、支店長、次長に迷惑をかける仕事をしてはいけないということが第一であった。迷惑をかけないためには、取引先に迷惑をかけて、トラブルを起こすようなことがあってはならないということである。たとえば、融資申込みに対して稟議手続きが遅れて融資の実行が期日に遅れたりすると、取引先は資金繰りに窮して大変なことになる。これは極端な例であるが、金利引上げ交渉では、すんなりと受けてくれる取引先ばかりではないから、何回かの交渉が必要になる。担当係員と一緒に、粘り強い交渉と誠意ある対応が必要になる。
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業績面についても、単に金利だけではなく、延滞貸金や貸倒れが起きないよう、常時取引推移を注意深く見守る必要がある。延滞貸金や貸倒れが起きないようにするためには、新規貸金を極力抑えて、既存貸金を管理するのが一番安全ということになる。しかしそれでは業績進展は望めない。新規貸金を積極的に採り上げてこそ、業績も進展するし取引全体が活性化する。このバランスをとることは、口でいうほど簡単ではなく、結構大変である。私の考えでは、バブル期の銀行は、融資の一番の基本であるこのバランスを欠いて、業績進展を最優先して貸出し競争に走ったからだと思っている。
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しかし、管理者として私が最も力を入れたのは、部下の教育であった。この場合の教育とは、単に稟議の書き方の指導ではない。もちろん、それは融資課員としては必須の技術であるから当然のことであるが、それだけではなく、接客の際、相手に失礼がないよう言葉遣いに注意する、部屋の出入りの順序や席順等についても、それぞれの担当者について注意深く見守って必要な場合は注意することなども日々の教育の一環である。
また、行員は人によって個性が違うから、決して、自分の考え方を押し付けて画一的な指導をするのではなく、それぞれの個性をできるだけ尊重することが大事であると考えていた。
またミスをした場合も、ミスは誰にでもあることなので仕方がないからそれを責めるのではなく、当人にミスをミスとして自覚させるとともに、二度と同じ間違いをしないように、どうすべきかを本人に考えさせるということが大事である。
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それと同時に、それぞれの個性に応じて長所や短所があるのは当然であるが、できるだけ長所を認めてそれを伸ばすように、短所については、その克服に努力をするように指導することを心掛けた。前回第11回で述べたI君は、稟議を書くのは速かったが、分析に深みが書けるというのが欠点といえば欠点であった。その点、O君は、稟議遅れがないのは当然としても、過不足のない分析と、こなれたわかりやすい文章を書いた。課長代理のB君は、稟議を書くのは速かったが、訂正箇所や足りない部分を指摘すると、その部分は直っているのであるが、書き直した部分の文章が途中でそのままになっているということがよくあった。何度か注意をしたが、その点はあまり変わらなかった。性格的な問題は、なかなか直せないもののようである。
以上