◇SH0272◇インドネシア:外国人の就労 福井信雄(2015/04/01)

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インドネシア:外国人の就労

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 

 インドネシアを訪問する度に感じるストレスの一つが入国審査であることは訪問の経験のある方であれば皆さん共感されることと思います。出張で訪問される方の多くは到着ビザ(アライバルビザ)を空港で取得されていますが、この場合、到着ビザを購入するための列にまず並び、その後隣の入国審査の列に並び、この2つの関門を抜けてようやく入国となります。運が悪いときにはこの2つの関門を抜けるだけで1時間以上要することもあり、さらには空港を出てから市内に入るまでにジャカルタ名物の渋滞にはまり、2時間、3時間、ときには4時間のドライブを経てやっとホテルに到着ということも珍しくありません。昨年末頃に、日本人に関しては2015年からこの到着ビザの取得が免除されるという報道がなされていましたが、2015年3月末の時点でまだこの制度変更は実施されていません。代わりに、出入国審査の際に提出する出入国カードの提出が不要になるというマイナーな運用の変更がジャカルタのスカルノハッタ空港では開始されています。これにより若干ですが入国審査にかかる時間が短縮されたように思います。いずれにしても更なる制度改革が期待されるところです。

 インドネシアに駐在されている方はKITAS(キタス)と呼ばれる滞在許可証とIMTA(イムタ)と呼ばれる就労許可証を保有しており、出入国審査については出張者に比べるとスムーズですが、今回は、この就労許可にまつわる最近の話題を2点ご紹介します。

1.非居住者役員の取扱い

 昨年頃から時々ご相談をいただくのが、インドネシアの労働当局から非居住の現地法人の役員(取締役・コミサリス)に関しても就労ビザを取得するようにとの指導を受けたという話です。なかには罰金を科されたという話も聞こえてきており、一担当官レベルでは無く労働当局としてそのような動きが見られます。

 法的な観点から論点を整理すると、労働法及び入国管理法上は、インドネシア国内で就労する外国人に対して就労ビザの取得を義務づけています。他方で、会社法上は、インドネシアの現地法人の役員に就任する者について居住要件・国籍要件は定めておらず、したがって非居住の外国人が役員に就任することも特段問題はありませんでした(ただし、実務的な観点からは居住取締役が誰もいないのでは日常の業務執行ができませんので、最低1名の取締役は居住取締役を選任すべきでしょう)。ところが最近になって特段の法改正もないまま上記のような行政指導がなされているという実態をみると、労働当局の運用が変わったという可能性が最も高そうですが、ただ他方で会社法上は容認されている扱いですし、また罰金を科すことの法的な根拠も薄弱です。したがって、そのような指導を受けた場合には、法的根拠を示しながらこちらの正当性を示しつつ、担当官にもそのような指導の法的な理由付けの説明を求めるなど、適切な対応が求められます。

2.インドネシア語の能力試験

 インドネシアの入国管理法上の下位法令である労働移住大臣令(2013年第12号)において、外国人に対して就労許可を発行する要件の一つにインドネシア語でのコミュニケーションができることが挙げられています。これまでの就労ビザの審査ではそれを実際に試験で確かめるということは行われていませんでしたが、労働移住省によれば現在その試験の策定段階にあり、近い将来に実施される見込みとされていました。ところがここにきて、外国企業だけではなく内国企業からも反対の声があがっており、現在実施に踏み切るかどうかについては、不透明な状況になっているようです。最低限のインドネシア語は話せた方が良いのは確かですが、就労ビザ発行の要件にするのは諸外国の就労ビザの発給要件と比べても厳しいですし、赴任準備期間が十分取れないような外国人が事実上就労を認められないということになってしまいます。導入されれば実務への影響も小さくない制度ですので、この動きは今後も注視していく必要があるでしょう。

以上

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