◇SH0509◇タイ:個人情報保護法の制定に向けて 箕輪俊介(2015/12/18)

未分類

タイ:個人情報保護法の制定に向けて

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 タイにとって、本年は、実に多くの重要な法律が、長年の討議を経て成立の日の目を見た年であった。これらの法令には、相続税の導入や、クラスアクション法制、成立に至るまで20年近い年月を要した事業担保法も含まれる。このように長年の間審議が進まなかった法令が昨年から今年にかけてテンポよく制定されている背景には、政治的対立の緩和があるものと考えられる。すなわち、タイでは従来、政治的対立が激しく、また政権交代も度重なり、所与の法令の策定を円滑に進めようにも進められない状況が続いていた。この政治的対立が昨年より軍事政権が政権を担うことにより図らずも現状沈静化しているため、立法活動も従前に比して比較的円滑に進んでいるものと考えられる。

 来年度も軍事政権は続くこととなっており、本年のように重要な法改正が進めやすい状況が今後も暫く続くものと予想される。その中で、動向を注目していきたい法律のひとつが個人情報保護法である。個人情報保護法も構想自体は20年近く前からあるものの、なかなか成立が実現しなかった法律のひとつである。報道によれば、情報通信技術省による法案の修正を経て、来年4月までを目処に法案が国民立法議会にて審議される見通しである。早ければ来年度中の成立、施行が期待されている。

 既述のとおり、今後も内容が修正されることが予定されているため、法案の内容は今後も変わりうるものの、現状確認できる法案を見る限り、日本の個人情報保護法と内容において大きな差異はない。すなわち、個人情報として、「直接又は間接に個人を特定することができる個人に関連する一切の情報」を定義し、かかる個人情報を収集、利用又は開示することに関して規定を設けている。タイにおける現在の法案の方が、日本の個人情報保護法に比して、利用目的の特定に関して厳格であったり、人種、民族、政治的思想等に関連する「要保護情報」に関する特別な規制を設けていたりと細部は異なるところがあるものの、大要は同じ内容であるものと認識している。

 これまで、タイでは一部の事業において扱われる個人情報(金融機関が把握する個人の信用情報や診療行為を通じて医療従事者が取得した受診者の情報等)を除き、一般の事業者を対象にした個人情報保護法はなかった。今般の個人情報保護法制が導入されると、個人情報を利用するにあたり、一般の事業者にも新たな制約が課されることになる。したがって、新法の制定のタイミング及びその内容については今後も注目していくべきと考える。そして、日本の個人情報保護法との異同を確認し、日本と異なる対応をしなければならない点はどこなのかを把握した上で、タイの法人(現地法人及び合弁会社を含む。)でどのような対応を取らなければならないかを検討していく必要が出てくるであろう。

 

タイトルとURLをコピーしました