◇SH0598◇シンガポール:2016年SIAC仲裁規則の改正 (1) 青木 大(2016/03/17)

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シンガポール:2016年SIAC仲裁規則の改正(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

 SIACの仲裁規則はこれまで数次の改正が重ねられ、現行規則は2013年4月1日に施行された第5版であるが、現在次なる改正作業が進められている。

 今回の改正は、他の著名仲裁機関でも採用されているベストプラクティスを取り込みつつ、仲裁手続の迅速化その他利用者の便宜に資する点についてバージョンアップを図るものといえる。

 改正案は2016年1月18日にSIACのウェブサイトに掲載され、同年2月29日までの間、パブリックコメントに付された。改正規則は所要の修正等を経て、2016年5月27日に開催されるSIACの総会において発表・施行の予定である。また、投資協定仲裁に特化したSIAC投資仲裁規則も検討が進められており、併せて発表・施行の見込みである。

 公表済みの改正案における改正内容は多岐に及ぶが、本稿ではその主要な点について概説する。

 

1.複数の契約に関する紛争の併合(新第4条、第8条)

 改正案新第4条においては、 (a) 両当事者が合意した場合のほか、(b) 複数の契約がSIAC仲裁規則に基づく仲裁合意を規定し、それらの仲裁合意が適合的(compatible)な場合であって、かつ(i)紛争が同一の法律関係から生じた場合、(ii)これらの契約が主従の関係にある場合、又は(iii)紛争が同一の取引又は一連の取引から生じたものである場合には、単一の仲裁を申し立てることが可能となった。

 2013年ICC仲裁規則第10条、2013年HKIAC仲裁規則第28.1条、2014年JCAA仲裁規則第15条も類似の規定を置いており、これらに倣った改正といえる。ただし、JCAA仲裁規則は、「同一」の法律関係から生じた場合だけでなく「同種」の法律問題又は事実問題を含む場合にも併合を認めるなど、各規則において併合可能な範囲は異なり得る。

 このような規定がない状況であっても、一旦複数の仲裁を申し立てた後、同一の仲裁廷の選定を当事者が求め、当該仲裁廷に両手続の併合を求めることも実務的には可能であるが、同規定の新設によって、より簡便な併合請求が可能となる(申立手数料も軽減できる。)。

 また、既に申し立てられている複数の仲裁手続についても、仲裁廷が完全に構成される前においては、当事者の申立てにより、同様の要件において、SIACが併合を認めることができる(新第8.1条)。仲裁廷構成後は、同一当事者間の紛争で同一の仲裁廷が選定されている場合に限り仲裁廷が併合を認めることができる(新第8.3条)。

 ただし、この新第8条に基づく申立後の複数請求の併合は、一つの請求が簡易仲裁手続(新第6条)によることが決定されている場合や、仲裁合意が改正規則の施行前に締結されている場合には適用されない(新第8.5条)。

 

2.簡易仲裁においてヒアリングの開催の有無を仲裁廷の裁量とする(新第6.2条)

 簡易仲裁においては、従前当事者が書面のみによる審理に合意しない限りは、ヒアリングを開催しなければならないと規定されていたところ、本改正は、ヒアリングを開催するかどうかについては仲裁廷が裁量により決することができるものとされた。

 

3.第三者の手続参加(新第7条)

 仲裁人の選任前において、(1) 同一仲裁合意における当事者又は(2) 全当事者(当該第三者を含む)が書面でその参加に合意している場合には、当事者又は当該第三者の申立てにより、SIACは当該第三者は当該仲裁手続に申立人又は被申立人として参加させることができる。仲裁人の選任後は、仲裁廷がその判断を行うこととなるが、その場合は同一仲裁合意における当事者であっても、仲裁人の選定に当該者は関与していないから、当該第三者の同意が必要となる(新第7.6条)。

 2013年ICC仲裁規則第7条、2013年HKIAC仲裁規則第27条、2014年JCAA仲裁規則第52条も類似の手続を規定する。このような規定がない場合であっても、全当事者の合意があって仲裁廷がこれを認める限り手続参加は可能であるが、仮に第三者の同意がない場合であっても、仲裁廷構成前でかつ同一仲裁合意における当事者に関しては、SIACが関連事情を考慮の上(新第7.5条)、手続参加を認めることができる点において実質的に手続参加の可能性が拡張されている。

(続く)

 

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