◇SH0651◇中南米諸国向けファイナンス取引に関する考察 ― メキシコ編(1) 杉山泰成(2016/05/09)

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中南米諸国向けファイナンス取引に関する考察 - メキシコ編(1)

西村あさひ法律事務所

弁護士 杉 山 泰 成

1  日本の金融機関によるメキシコ法人に対するファイナンスの提供

(1)  ファイナンス取引のタイプとレギュレーション

 メキシコには既に多数の日本企業が進出しており、従来からの取引関係や低金利の資金提供を求めて、日本の金融機関からの資金調達を希望する日系企業からの需要は大きいと思われる。

 現状のメキシコの規制当局は、メキシコ国内金融機関向けのレギュレーションをクロスボーダーでファイナンス取引を行う海外の金融機関に直接適用するアプローチは採っておらず、ローン、ファイナンス/オペレーティング・リース、割賦/延払売買など様々な形態で日本の金融機関がファイナンス・サービスの提供を行うことは可能となっている。また、メキシコの外国為替管理規制については、現状では日本からの金融取引について、原則的・一般的に適用されるものはなく、従って、日本の金融機関は、メキシコ法に基づく金融・外為レギュレーションを特に意識することなく取引の組成が可能である。

(2)   準拠法・裁判管轄の問題

 メキシコ法人向けのクロスボーダーのファイナンス関連契約の準拠法や裁判管轄の合意については、後述する担保に関する一定の例外を除き、原則として契約当事者間の合意が優先すると解されている。そして、金融取引の準拠法・裁判管轄を決定するにあたっては、債務不履行や期限の利益喪失時に、債務者に対して訴訟を提起し、執行するまでの手続的・費用的負担を考慮する必要があると思われる。

 ローン、リース及び売買契約についてメキシコ法を準拠法とすることについては、(メキシコで訴訟提起する場合に、裁判所が契約書の解釈を理解しやすいという点を除いては)日本の金融機関には特段のメリットはなく、契約条項等の解釈の予測可能性の高い日本法(借入人側の提供がある場合には、ニューヨーク州法など)を準拠法とすることが妥当と思われる。

 一方、裁判管轄については、日本法を準拠法とする場合には、日本の裁判所を基準とするのが原則と考えられる。但し、メキシコでは、日本の裁判所の判決の執行承認が現状では認められているとは言えず、日本の裁判所を専属的合意管轄裁判所とすると二重の手続的負担を要することも考えられる。従って、日本の裁判所の管轄は非専属的合意管轄として、ケースバイケースの判断で直接メキシコの裁判所に訴訟提起する余地を残しておくことが望ましいと考えられる。また、メキシコは国際仲裁に関するニューヨーク条約の締約国でもあるため、取引金額が大きい場合(国際仲裁に関するコスト負担が合理的な場合)には、仲裁条項を規定し、東京又は第三国の国際仲裁を紛争処理手段として合意することも有効なオプションである。

2   メキシコ法人に対する保全の方法 - 保証

 メキシコ法人に対する金融取引を行う場合の保全方法の一つとして、その親会社又は第三者から保証を取得することが考えられる。そして、保証契約は債権契約であり、保証人の所在地法が強制適用されることにはならない。従って保証の種類・手続・履行条件については、保証人の所在地がどこか、また保証の準拠法を日本法とするか、メキシコ法とするか、第三国法とするかによって影響を受けることになる。

保証人の属性

保証契約の準拠法・裁判管轄

原則的な対応

日系企業の親会社である日本法人

準拠法:日本法

裁判管轄:日本の裁判所(専属的合意管轄)

債務者(メキシコ法人)からの回収よりも、日本で親会社(日本法人)から回収を図る方が手続・コスト面で有利性が認められる。保証契約関係は、金融機関と保証人の間の日本国内取引であり、メキシコの法律・裁判所を特に考慮する必要はない。

関連企業又は第三者のメキシコ法人

準拠法:日本法又はメキシコ法

裁判管轄:日本の裁判所(非専属的合意管轄)又は仲裁合意

準拠法について、第三者による保証の場合にはメキシコ法を主張されることが多い[1]が、関連企業の場合には日本法を準拠法とする余地もある。

裁判管轄については、日本の裁判所の管轄を保証人がのまない場合には、(第三国の)仲裁合意として妥協することが考えられる。

関連企業又は第三者のその他の国の法人

準拠法:日本法又はその他の国の法律

裁判管轄:日本の裁判所(非専属的合意管轄)又は仲裁合意

準拠法については、レンダー側(日本法を主張)と債務者・保証人側(日本法以外の法律を主張)のパワーバランスにより決まることが多い。

裁判管轄については、メキシコ法人の保証人の場合と同様の考察。

 

(以下、メキシコ編(2)に続く。)


[1]    第三者による保証について、メキシコ法では個人保証(personal guarantee:債務者の債務履行時に保証人が支払いを行うことを約束する)、ボンド(bond:許認可を受けた保証会社が保証提供する場合)、流通証券に関するaval(保証人が連帯責任を負い、債務者に対する権利行使を経ることなく請求可能)が認められている。

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は、公開情報・資料をベースとした執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

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