◇SH0659◇中南米諸国向けファイナンス取引に関する考察 ― メキシコ編(2) 杉山泰成(2016/05/16)

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中南米諸国向けファイナンス取引に関する考察 - メキシコ編(2)

西村あさひ法律事務所

弁護士 杉 山 泰 成

3 メキシコ法人からの担保の取得

 メキシコ法人に対する金融取引を行う場合の保全方法として、担保権の設定が考えられる。物的担保の場合には、担保対象物の所在地法が強制適用されるため、原則としてメキシコ法上の担保権を使用することになる(但し、債権譲渡担保の場合(特に外国法準拠の債権の場合)には、日本法/外国法上の債権譲渡担保を設定する余地もある。)。

(1) メキシコ法に基づく担保の種類と成立要件

 メキシコ法上認められている主な担保権には、Pledge(prenda)、Non-possessory Pledge(prenda sin desposessión)、Mortgage(hitoteca)、Guarantee Trust/Security Trust(fideicomiso de garanria)などがあり、日本法上の担保権と類似するもの及びメキシコ法独自の担保権が存在する。各担保権の法的性格に関する概要は以下のとおりである。

担保権の種類 担保対象物 担保の成立/対抗要件・担保契約の様式

Pledge(日本法の質権に類似)[1]

動産及び債権

対象動産の占有をPledgee(質権者)又は第三者に移転させることが対抗要件として必要である。

商取引においては、譲渡性証書への裏書などPledgeは異なった方法で設定される。

有価証券

Pledge on listed securities(prenda bursátil:上場有価証券質権)の場合には、Pledgor(質権設定者)、質権者、担保管理人(administrator)[2]及び担保執行者(executor)との間でPledge Agreementを締結の上、対象証券を担保管理人が有価証券決済機関であるIndevalに保有する特別口座に振り替える。

Indevalを使用せずに、担保上場有価証券の権利を質権者に移転させ、被担保債務の弁済時に同額の有価証券の返還を受ける方式のPledgeもある(日本法における譲渡担保類似)。

Non-possessory Pledge(日本法の譲渡担保に類似)

動産、有価証券及び債権

質権設定者が対象動産の占有を維持できる。Non-possessory Pledgeは、質権設定者と質権者との間の書面によるPledge Agreementの締結及び当該契約の登記局への登記により第三者との関係で有効かつ対抗要件を具備できる。担保資産が一定額を超える場合には、公証人の面前で署名を追認することが必要。

Mortgage(日本法の抵当権に類似)

不動産及び一部の動産(航空機・船舶)

特定の資産に設定され、対象資産の占有は抵当権設定者(mortgagor)が維持する。Mortgageは、抵当権設定者の単独行為又は抵当権設定者及び抵当権者(mortgagee)の間のMortgage Agreementの締結により設定される。第三者との関係で有効となるためには、Mortgageの設定証書は公証人の面前でformalizeされ、登記局に登記されることを要する。

企業資産

Industrial Mortgage(hipoteca industrial)の場合には、企業全体に担保設定が行われ、占有は抵当権設定者が維持する。Industrial Mortgageは、特別法に従って、メキシコの許認可を受けた銀行(外国の金融機関に対する設定を認める見解もある。)に対して設定される。公証人の面前でのformalize及び登記局への登記が必要。

Guaranty Trust/Security Trust

動産、不動産及び債権

信託の特殊形態であり、資産の所有権は受託者に移転され、受託者は資産を所有し、デフォルト発生時には担保執行を行う。一定の金融機関のみが受託者となることができる。将来取得する資産についても設定が可能であり、登記局への登記が必要である。担保資産が一定額を超える場合には、公証人の面前で署名を追認することが必要。

(2) 担保権の保全・執行方法

 メキシコ法においては、契約上別途規定する場合を除き、被担保債務の一部弁済があった場合には、PledgeとMortgageは複数の資産が担保対象の場合又は(Pledgeの場合のみ)資産が分割可能である場合には、弁済部分に比例して担保権も解放される。またMortgageの実行には、裁判所による競売が必要であり、Pledgeの実行については、担保資産の売却に関する裁判所の承認を得るための簡易手続きが利用可能である。一方で、Guaranty Trust/Security Trust、Non-possessory Pledge及びPledge on listed securitiesについては、裁判所を通じた執行及び(契約条項上の手当てがあれば)裁判所を経ない任意売却も可能である。

 従って、担保契約を作成する場合には、メキシコ法弁護士のサポートを受けつつ、メキシコ担保法の特性をふまえたドキュメンテーション及び調印作業が必要となる。

以 上

 


[1]    この他にPledge under production-specific loans(créditos refaccionarios /créditos de habilitación o avío)というproduction-specific loan(生産用の資金を融通するローン契約)の対象資産(対象資産からの製造物、金融を受けた企業の不動産その他の財産)に設定されるPledgeがあり、対象資産の占有は質権設定者が維持し、ローン契約を登記局に登記することが必要である。

[2]    担保管理者及び執行者ともに許認可を受けたディーラー又は銀行であることを要する。

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は、公開情報・資料をベースとした執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

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