コロンビアの知的財産権制度の基礎
西村あさひ法律事務所
弁護士 仁 木 覚 志
1 はじめに
コロンビアは、ペルー、ボリビア及びエクアドルとともに、カルタヘナ協定(Cartagena Agreement)に基づき設立された機構であるアンデス共同体(Comunidad Andina)を形成している。
アンデス共同体の機関である委員会の決議は加盟国において直接適用され、代表的なものとして特許、実用新案、意匠等の産業財産権に関する決議第486号、著作権に関する決議第351号が存在する。
上記決議に基づき、加盟国における知的財産権に関する基本的な制度枠組みは統一されているが、出願手続き等の詳細については、加盟国は独自に国内法を定めている。
なお、上記協定及び決議は、欧州特許条約(EPC)のように統一された特許庁を創設するものではない。
2 産業財産権
(1) 特許及び実用新案
特許権の存続期間は、出願日から20年間である。
特許権の登録要件としては、新規性、進歩性、産業上の利用可能性が求められている。発見、コンピュータプログラム又はソフトウェアそれ自体や、自然界の生物、自然生物学的プロセス、自然界に存在する、又は分離できる生物学的物質等は、特許の対象とはなっていない。
なお、特許の付与を求める対象が、遺伝資源やアンデス共同体加盟国の伝統的な知識に基づく場合には、国の管轄機関からの使用許可に関する書面等のコピーを出願時に提出することが特許要件とされている。
特許出願は方式審査が終了した後に出願公開され、正当な利害関係を有する者は公開日から60日以内であれば異議申立を行うことができる。出願人は、公開日から6ヶ月以内に審査請求を行わなければならず、当該期間内に審査請求が行われなかった場合は、出願は取り下げられたものとみなされる。
また、特許無効審判制度が設けられており、特許の無効を求める者は、いつでも特許の無効を申立てることができるが、行政上の手続きの瑕疵に基づく場合は、無効の宣告は登録から5年以内に行わなければならないものとされている。
なお、特許については早期審査制度は存在しないが、日本国特許庁との間で、特許審査ハイウェイ・プログラムの試行が2014年9月より行われている。
実用新案権の存続期間は、出願日から10年であり更新することはできない。実用新案の保護対象は、機器、道具、装置等とされており、工程、方法、化学的複合物等が除かれている。なお、登録要件として、特許と同様に新規性、産業上の利用可能性が求められている。
実用新案の審査、異議申立及び無効審判制度については、概ね特許と同じである。
(2) 意匠
意匠権の存続期間は、出願日から10年であり更新はできない。
登録要件としては、新規性及び産業上の利用可能性が求められている。なお、また、技術的・機能的考慮から必然的に決定される意匠、部品を組み立て又は連結するために必要な形状のみからなる意匠等については登録を受けることができない。
意匠の審査、異議申立及び無効審判制度については、概ね特許と同じである。
(3) 商標
商標権の存続期間は登録日から10年であり、更新も可能である。
視覚的に表現可能な標章であれば登録を受けることができ、保護対象には、単語、図形、三次元的表現、色彩のみならず、音響や匂いも含まれる。
商標出願の方式審査後に出願公開され、正当な利害関係を有する者は、公開日から30日以内に異議申立を行うことができる。
また、登録商標無効審判制度が設けられており、先に登録された商標との類似等の相対的拒絶理由による場合、又は悪意によって取得された場合は、無効を求める者は、登録から5年以内に無効審判を申立てることができる。なお、商標の識別性の欠如等の絶対的拒絶理由による場合は、上記の期間制限は適用されない。
なお、3年間正当な理由なく使用されなかった場合は、利害関係人によって登録商標が取り消されうる不使用取消制度も存在する。
(4) その他
上記の他に、半導体集積回路の回路配置、地理的表示及び営業秘密に関する保護規定がある。
3 著作権
財産権、著作者人格権、著作隣接権についての保護規定があり、財産権としての保護期間は、著作者の生存中と死後80年間であり、権利の保有者が法人である場合は、公表された日から70年間とされている。
4 条約の加入状況
パリ条約、UPOV(植物の新品種の保護に関する国際条約)、ベルヌ条約、WCT(著作権に関する世界知的所有権機関条約)、WPPT(実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約)、PCT(特許協力条約)及びマドリッド協定議定書にも加盟している。
5 知的財産権所管官庁
コロンビアでは、商工監督局(SIC)が産業財産権を管轄し、国家著作権局(DNDA)が著作権を管轄する。
6 権利侵害及び水際措置
知的財産権の侵害について、民事上の救済(差止及び損害賠償)を求めることのできる司法手続きが設けられており、刑事罰も定められている。
水際措置に関しては、税関当局が担当機関となるが、著作権侵害物品、商標権侵害物品のみが対象とされている。
以上
(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。