ペルー労働法の基礎
西村あさひ法律事務所
弁護士 森 本 大 介
1 はじめに
ペルーの経済は堅調に推移しており、就業人口も増加の一途をたどっているところ、2008年1月以降は、賃金台帳(社会保険納付)電子システム(PlanillaElectrica)が導入され、これに基づき勤怠管理や税金・社会保険料の把握・管理がなされている。このように、労働雇用促進省においても労働者の権利保護、待遇改善に取り組んでおり、2013年には労働基準監督署(SUNAFIL)の設置に関する法律が可決されたという状況に照らしてか、ペルーにおける労働組合の組織率は10%以下であり、中南米諸国の中でも最も低い国の一つであるにも拘わらず、ペルーにおける労働争議の発生件数は高止まりしている。このように、ペルーにおける労働法制に関しては、企業側にとっては留意すべき点も多いため、本稿ではペルーの労働法制を概観する。
2 労働契約の成立及び解消
ペルーにおいては、労働関係の成立のために書面による労働契約の締結は不要である。但し、有期雇用契約を締結する場合には書面による契約を締結する必要があり、契約が存在しない場合には、無期雇用契約と見做される。労働条件に関しては、賃金、労働時間、時間外労働、年次有給休暇、賞与、産休・育休制度、勤労時間補償等に関する法令上の最低限度が定められている。そのほか、雇用主において負担が求められるものとして、生命保険、社会保険、危険業務補償保険、職業訓練所(SENATI)負担金等が存在する。
雇用契約に関しては、原則として3か月の試用期間が設けられるが、当該期間経過後に労働者を解雇するためには、「重大な違反」(たとえば、労働条件の不遵守、意図的かつ反復した勤怠、使用者の資産ないし役務の横領等)、故意の重罪で有罪になること、司法手続又は行政手続により一定期間以上職責を果たすために必要な資格を失うことその他の正当事由が必要である。明白かつ重大な違反に基づく解雇の場合を除き、使用者は、解雇の6日前までに解雇理由を明記した書面で解雇対象となる労働者に対して通知しなければならない。正当事由なく解雇された労働者は、使用者から一定金額の補償(最大で12か月分の報酬額相当)を受けることができる。
ペルーにおいては、不可抗力、会社が事業再生ないし破産手続に入ったこと、その他一定の事由があるときは、労働規制当局の承認を含む法定の手続を履践することで労働者の整理解雇を行うことができる。
3 利益分配制度
ペルーには、メキシコのPTU類似の利益分配制度が存在し、正規労働者を20人以上を雇用する使用者は、課税所得の一部を労働者に分配しなければならないこととされている。労働者に分配すべき比率は業種ごとに異なっており、配分率は、製造業、漁業、電気通信業が10%、鉱業、卸売・小売・飲食業が8%、その他の業種が5%と定められており、従業員に分配した後の余剰分は、職業訓練・雇用促進基金に納められる。
4 ペルーにおける外国人雇用
ペルーにおいては、外国人を雇用するためには所定の方式で契約書を締結し、労働省の許可を受ける必要がある。外国人の雇用期間は3年間を超えてはならず(更新は可能)、また、経営者及び特殊技能者等を除き、原則として、各企業の外国人雇用者の人数の割合は20%を超えてはならず、報酬額の割合も30%を超えてはならないとされている。
5 ペルーにおけるストライキ
ペルーにおいては、ストライキの実施方法が法令上定められており、労働者の半数以上が合意していることに加え、それを書面で証明し、民間企業の場合はストライキの理由、期間、時間帯などを明示し、5日前(公的部門の場合は10日前)に雇用者及び労働雇用促進省に通知する必要がある。これらの手続きを履践しない場合やストライキ中に暴力行為が発生したケースは違法ストライキになる。もっとも、ペルーにおいては、違法ストライキが多く発生しているという点が問題視されている。
以 上
(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。