◇SH0868◇ミャンマー:新投資法の成立(下) 長谷川良和(2016/11/07)

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ミャンマー:新投資法の成立(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

 前回、「ミャンマー新投資法の成立(上)」の中で、新投資法の位置づけ、投資承認ルートと優遇付与ルートの類型、及び禁止・制限対象投資について紹介した。本稿は、その続編として、新投資法に関する他のポイントを簡潔に紹介することとしたい。

 

2 新投資法のポイント(続)

(1) 不動産の長期使用権

 新投資法の下では、投資承認又は優遇付与を得た投資家は国民又は政府等が保有する土地又は建物の長期賃借をする権利を有しており、外国投資家に関しては、投資承認又は優遇付与の日から当初最大50年、土地又は建物を賃借可能とされている(その後も投資委員会の承認を得て1回10年を限度とする延長が2回まで認められる可能性がある)。賃借期間の点では従来の外国投資法と類似するが、新投資法の下では投資承認ルートの場合とは別に、優遇付与ルートの場合にも不動産の長期使用権が認められることになる。

(2) 優遇税制

 新投資法の下では、投資家が優遇付与申請をした場合に投資委員会により一定の税優遇を付与される可能性がある。例えば、所得税(法人所得税を含む)に関しては、投資委員会は政府の承認を得て通達により以下の各区域を指定するとされており、投資家は、通達により別途定められる投資奨励分野における各区域での投資事業に関し、以下の各期間の所得税免除を受けられる可能性がある。

未発展区域

 事業開始年を含む7年間の所得税免除

中間発展区域

 事業開始年を含む5年間の所得税免除

先進区域

 事業開始年を含む3年間の所得税免除

 また、投資承認又は優遇付与に係る投資事業から得られた利益を一年以内に同一又は同種の投資事業に再投資する場合には、投資家による申請を受けて投資委員会が所得税の減免措置を講じる可能性もある。

 詳細は割愛するが、新投資法では、それ以外にも所得税、関税その他の税に関して一定の税優遇が付与される可能性がある旨が規定されている。

(3) 雇用関係

 新投資法の下で、投資家は、ミャンマー国民を管理職、技術・事業に係る専門職及びアドバイザーの地位に選定できるようにするために能力開発プログラムの提供を準備する義務を負う。また、投資家は、未熟練労働についてはミャンマー国民のみを雇用する義務を負い、また熟練労働については労働法令に従って使用者及び従業員間の雇用契約書に署名することにより熟練したミャンマー国民及び外国人労働者、技術者及び職員を雇用する義務を負うこと等が規定されている。従来の外国投資法の下では、熟練労働者に関し、外国投資家は原則としてミャンマー国民の雇用割合を事業開始の当初2年間で25%以上、次の2年間で50%以上、更に次の2年間で75%以上に増加させる義務を負っていたが、新投資法はこの点に関し雇用割合の具体的な数値は定めていない。

(4) 投資家保護

 新投資法の下で、外国投資家には、新投資法に基づいてなされた投資に関し、同法に従って配当、ロイヤリティ、ローン契約に基づく支払、清算時の残余財産等に係る資金を送金する権利が付与されている。また、新投資法に基づく投資の非国有化に関しても一定の国家保証が定められている。

(5) 投資家の義務

 新投資法の下、投資家は投資に関しミャンマーの国内法令や自然・社会環境の汚染・破壊等を行わないための最善の国際実務水準を遵守する義務を負うほか、投資実行にあたり適用法令に従って環境アセスメント等を実施するといった一般的な義務を負う。また、投資承認又は優遇付与を得た事業に関し、投資期間中にサブリース、担保又は株式若しくは事業の譲渡を行う場合には、投資委員会に通知する義務を負う。

 

3 おわりに

 今後、新投資法に関する細則が出され、その中で新投資法に基づく投資に関するより具体的な内容が定められる予定である。ミャンマーにおいて大規模な事業投資や不動産の長期利用を必要とするような投資を検討する日系企業にとっては、かかる細則を含めた新投資法制やその運用の動向を注視していくことが重要といえよう。

 

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