ミャンマー:新投資法に関する今後の見通し等
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 山 本 匡
2016年10月に、外国投資法(Foreign Investment Law)とミャンマー国民投資法(Myanmar Citizens Investment Law)を統合する、ミャンマー投資法(Myanmar Investment Law)(新投資法)が成立した。このことは、ミャンマーに既に投資し、又は今後投資しようとする外国企業にとって、投資家の義務や各種優遇措置等、投資判断・事業に重大な影響を与える法律が成立し、規制が変更されたことを意味する。
外国投資法は、ミャンマー投資委員会(Myanmar Investment Commission)(MIC)の投資承認を取得する場合にのみ適用されるのに対し、新投資法は、MIC投資承認の取得の有無に拘わらず全ての投資に適用されることや、外国投資法ではMIC投資承認と同法上の各種優遇措置とがリンクしているのに対し、新投資法ではMICの投資承認と各種優遇措置とが切り離されていること等、規制構造が根本的に変更された。
新投資法の原文はミャンマー語であるが、参考英訳が投資企業管理局(Directorate of Investment and Company Administration)(DICA)の以下のウェブサイトに掲載されているので参照されたい。
また、新投資法の内容に関しては、長谷川良和弁護士の記事(「ミャンマー:新投資法の成立(上)・(下)」)でも既に紹介している。
(1) 新投資法の運用開始時期と関連規則・通達
外国投資法と同じく、新投資法では多数の事項が規則・通達に委任されていることから、同法を運用するためには、関連規則・通達を制定する必要があるところ、現在、その作成作業が関連省庁の関与の下に進められている。新投資法の目的が同法第3条に定められており、これらを実現することができるかは規則・通達の内容によるところが大きいため、規則・通達の内容は極めて重要な意義を有する。
規則・通達は、2017年1月頃に草案が完成し、遅くとも3月に公表し、新投資法とともに4月1日から運用を開始することを予定している。2017年1月の草案完成はやや楽観的かもしれないが、いずれにしても、2017年4月1日に新投資法が運用開始されるとすると、公表から運用開始までの期間が短いため、運用当初は混乱が生じる可能性がある。
(2) 所得税免除と通達
新投資法において、外国投資法から大きく取扱いが変更されたものの1つとして、優遇税制措置がある。すなわち、外国投資法においては一律5年間の所得税(法人所得税を含む。)免除という優遇税制措置であるが、新投資法においては、地域の開発状況に応じて、7年(Zone (1))、5年(Zone (2))又は3年(Zone (3))の所得税免除がMICにより認められ得る。
そのため、投資家にとっては投資をZone (1)ないし(3)のどの区分に該当する地域において行うかが重要となるが、この区分は、MICが連邦政府の承認を得て通達により定めることとされている。これに関し、ミャンマーでは州内でも開発状況に差があることから、州全体等の広域をZoneの区分単位とするのではなく、開発状況に即して多少細かい区分とすることが政府・MIC内で検討されているようである。
また、外国投資法と異なり、新投資法では、所得税免除の優遇税制措置が適用されるのは、MICが定めた投資を奨励する産業についてのみである。この産業は、今後通達により定められるので、現段階では不明であるが、現地報道によれば、製造業、特に労働集約型製造業は含まれるであろうとのことである。また、製造業に次ぐものとして、インフラストラクチャー開発、そして農業・食品加工業が投資奨励産業として挙げられている。
(3) その他
新投資法と並んで重要な抜本的・全面的改正が行われようとしているのが会社法である。同法はまだ議会で承認されていないが、2017年の早い内に承認・施行されるであろうというのが現地での見立てである。新会社法の内容が、新投資法の条項の適用に影響を与えるため、新会社法の審議・施行状況もトレースする必要がある。