◇SH0400◇ベトナム:ベトナムにおける仲裁(1) 青木 大(2015/08/19)

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ベトナム:ベトナムにおける仲裁(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青木 大

 

 ベトナムは、1995年にニューヨーク条約に加盟して以降、外資参入の増加に伴って仲裁法制の整備を進め始めた。2003年には仲裁令(Ordinance on Commercial Arbitration)が制定されたが、その内容はUNCITRALモデル法を初めとする国際的な水準からはほど遠いものであった。2011年になりようやく新仲裁法が制定され、これはモデル法にある程度近づいたものと評価されているが、それでもなお、モデル法との相違点も少なくない。

 このように、ベトナムにおいて仲裁法制が整い始めたのは比較的最近であるが、これと歩調を合わせるかのようにベトナムを代表する仲裁機関VIACの仲裁件数はここ数年急増している(2012年64件、2013年99件、2014年124件)。統計によると、関係当事者の国籍としては、シンガポール、韓国、中国、米国、英国などが上位を占めており、また、紛争の内容としては売買契約が約7割を占め、建設や投資関連の紛争は、それぞれ5%程度のようである。

 現在のVIACの仲裁規則は2012年に施行されたものである。ICC等の著名国際仲裁機関の仲裁規則に似ている側面もあるが、2011年仲裁法との平仄をとることも意識しているためか、見慣れない条項も存在する。たとえば、同規則26条2項は、本案の判断の前に、仲裁廷は仲裁合意の存在、有効性、履行可能性及び管轄を当事者の異議申立の有無にかかわらず判断しなければならないという規定があるが、このような規定はICC、SIAC等の仲裁規則には見られないものである。

 ベトナム仲裁法及びVIAC仲裁規則は、相当程度の改善は図られているとはいえるものの、外国当事者にとっては違和感を感じる場面も少なからずあるというのが実感である。

 他方で、VIACの魅力としてはその低廉な仲裁費用が挙げられる。

 VIACウェブサイト上の計算式によれば、100万USDの案件における仲裁人報酬を含む仲裁費用は約24,777USD(3人仲裁人)。1人仲裁人の場合はこの70%とのことで、約17,344USDである(ただし実費等は除かれる。)

 他方で、SIACの場合、100万USDの仲裁費用は、平均値で約13万USD、1人仲裁人では約49,000USDであるから、その乖離は相当なものとなり得る。

 しかし、仲裁人報酬が低額であることが常に望ましいというわけでもなく、仲裁人の選択肢の幅、コミットメントの程度に影響があり得る点については留意は必要である。

 

 ベトナム当事者との間で契約を締結する場合に、ICC、SIAC等による外国仲裁にすべきか、VIAC等による国内仲裁とすべきかは、悩ましい問題である。そのいずれについても、ベトナム裁判所の介入を意識しなければならないからである。

 外国仲裁については、その仲裁判断をベトナム国内で執行しようとする場合に執行訴訟の場面で、国内仲裁については、仲裁判断取消訴訟の場面で、ベトナム裁判所の判断を受けることとなる。この点、執行訴訟はベトナム民事訴訟法(Civil Procedure Code)が、仲裁判断取消訴訟は上述の仲裁法が規律することになるが、そのいずれについても、執行拒絶・仲裁判断取消事由として、「ベトナム法の基本理念に反すること」という厄介な事由が存在している。これまでベトナム裁判所はこの条項に基づき少なからず執行拒絶・仲裁判断取消を行ってきた。

 このような状況が外国当事者から強く問題視されていたこともあり、2014年3月14日、最高人民裁判所は仲裁法につきこの解釈基準を示す指針(Resolution Guiding the Implementation of Certain Provisions of Law on Commercial Arbitration)を発布した(2015年7月7日付けでその非公式英訳がVIACホームページに掲載されている。)。(続く)

ベトナム:ベトナムにおける仲裁(2)

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