◇SH0488◇シンガポール:シンガポール改正会社法と第二段階の施行日決定 長谷川良和(2015/11/26)

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シンガポール改正会社法と第二段階の施行日決定

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 長谷川 良 和

 

 シンガポール改正会社法(「改正法」)の第二段階が2016年1月3日から施行されることが決定した。昨年10月に可決された改正法のうち、改正事項の約40%は本年7月1日から既に施行されており(「第一段階」)、残りの約60%が2016年1月3日から新たに施行されることとなる。第二段階の施行には、大幅な改修作業がなされている会計企業規制庁(ACRA)のオンラインビジネス申請・情報ポータル(BizFile)の登録・申請と直接関係する事項等も含まれており、第一段階と相俟って、会社法規制の負担軽減、より柔軟な制度設計の許容、及びコーポレートガバナンスの向上を意図した改正内容となっている。

 約1ヶ月余りに迫る第二段階の施行に向け、第二段階で施行される改正のうち、特に日系企業の関心が高いと思われる事項を以下にいくつか紹介する。

  1. 1. 基本定款と附属定款の一本化
    現行会社法の下では、会社の基本規則として、基本定款(Memorandum of Association)と付属定款(Articles of Association)の二種類の文書が併存する。しかし、現在の実務上の扱いに照らし、かかる文書を併存させる必要性は必ずしも高くないことから、改正法の下では、基本定款と附属定款が一本化され、定款(Constitution)という単一の文書となる。改正前に設立された会社の基本定款及び附属定款は、自動的に両者が一体として改正後の「定款」に読み替えられることになる。

  2. 2. 居住住所に代わる住所登記の許容
    現行会社法では、取締役、カンパニーセクレタリ及び会計監査人等は、会社の登記上で自身の居住住所の開示を義務づけられている。これに対し、改正法の下では、取締役等の個人の居住住所又はその他の所在地の住所のいずれかを選択できることになる。かかる代替住所の選択により、個人のプライバシー保護を図ることが可能となる。

  3. 3. 非公開会社の株主名簿
    現行会社法では、全ての会社で株主名簿の作成が義務づけられているが、改正法では非公開会社の株主名簿をACRAが電子的形態で維持することになり、非公開会社は当該会社の株式所有や株式譲渡に関する情報等をACRA登録用に提出することが必要となる。

  4. 4. 取締役、CEO、セクレタリ及び会計監査人の名簿
    現行会社法の下では、全ての会社で取締役、Manager、セクレタリ及び会計監査人の名簿を登録事務所に備置する義務が課されているが、改正法ではACRAがかかる名簿を電子的形態で維持することになり、会社は所定の情報をACRA登録用に提出することが必要となる。

  5. 5. 公開会社の一株一議決権の原則の緩和
    現行会社法上、公開会社について株主総会決議が挙手(show of hands)ではなく投票(poll)で行われる場合には、一株一議決権の原則が厳格に適用されているが、改正法は、より柔軟な資本政策を可能とするため、定款でこの原則と異なる内容を定めることを認める。例えば、一定の事項についてのみ議決権を有し、それ以外の事項について議決権を有しない議決権制限株式や、一定の事項について複数の議決権を有する内容の複数議決権株式の発行が可能となると考えられる。もっとも、既存株主の不利益防止の観点から、一定のセーフガードが設けられている。

  6. 6. 間接投資家の議決権行使機会の拡大
    現行会社法では、株主総会決議が投票で行われる場合、株主は、付属定款で別途規定されない限り、議決権の代理行使について、代理人2名までしか選任することができない。しかし、改正法の下では、ノミニーサービスを提供する銀行等が、かかる立場で株式保有する場合や、有価証券の管理サービスを提供するキャピタルマーケッツサービスライセンスの保有者等が株式保有する場合には、所定の条件の下、3名以上の代理人を選任することが可能となる。これにより、上記銀行等を通じて株式を間接保有する、実質的な受益者である間接投資家の議決権行使の機会が実質的に拡大すると見込まれている。

  7. 7. 財務諸表等の訂正手続の導入
    改正法は、会社の財務諸表等が会社法の要件を満たすか当局が疑義を抱いた場合に、当局から疑義の通知を受けて取締役会が所定の期間内に財務諸表等に係る訂正提案を当局に通知して訂正を行う手続、及び当該訂正がなされない場合に当局が裁判所に当該訂正の命令等を求める制度を新たに導入した。また、会社の財務諸表等が会社法の要件を満たさないと取締役会が考えた場合に、当該財務諸表等を自発的に訂正する制度も新たに導入した。これらは、瑕疵ある財務諸表等に係る会社法違反の状態を是正する手段として機能しうる。もっとも、かかる訂正により取締役の会社法違反に関する責任が遡って免除されるものではない。

 日系企業にとって、シンガポールの会社は地域統括会社として重要な役割を担うことも多く、日系企業担当者がシンガポール会社法に関する理解を得ておく必要性が生じることも少なくない。改正法の第二段階施行にあたり、各社の実情を踏まえた適切な準備や対応を行うことが重要と言えよう。

 

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