◇SH1138◇インドネシア:配車アプリを巡る狂騒 福井信雄(2017/04/28)

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インドネシア:配車アプリを巡る狂騒

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 

 インドネシアでも2015年頃から配車アプリ各社によるサービスが首都圏を中心に拡がり、現在は米国発のウーバー、マレーシア発のグラブタクシー、インドネシア発のゴジェックの三つ巴の戦いが繰り広げられている。その一方で、既存タクシー会社に所属する運転手が各地でデモを実施したり、配車アプリの契約ドライバーを空港から力づくで締め出すなど、配車アプリと既存タクシーの対立も先鋭化しつつある。そのような対立が続くなか、インドネシア政府は両者の調整に乗り出し、2016年、2017年にそれぞれ運輸大臣令を制定した。

 インドネシア運輸省が2016年に制定した非固定路線の公共輸送サービスの組織に関する運輸大臣令第32号(以下「2016年運輸大臣令」という。)では、非固定路線の公共輸送サービスを、①タクシーサービス、②シャトルバス等の特定の目的地への輸送サービス、③観光のための輸送サービス、④特定の地域に運行を限定した輸送サービスの4つに分類し、これらの公共輸送サービスの提供主体は、国営・公営企業、株式会社、組合のいずれかの組織でなければならず、これらの組織がかかる公共輸送サービスを提供する場合には公共輸送サービスの事業ライセンスの取得を義務付けた。これにより個人が自家用車を使ってタクシーサービス等の公共輸送サービスを提供することが明示的に禁止され、その結果、ウーバーのように利用者と個人の運転者を繋ぐプラットフォーム提供型の配車サービスには一定の規制がかけられることになった。これに対して、ゴジェックはインドネシアのタクシー最大手ブルーバード社との提携を発表し、それに続きウーバーはタクシー業界2位のエクスプレス社との提携をそれぞれ発表し、配車アプリ会社と大手のタクシー会社の協業の動きが見られ始めた。

 さらに、2017年3月31日、2016年運輸大臣令を改正する非固定路線の公共輸送サービスに関する運輸大臣令第26号(以下「改正運輸大臣令」という。)が制定された。配車アプリ各社が既存タクシー会社の経営を圧迫している現状を踏まえ、運輸大臣が配車アプリ各社のサービス料金について新たな規制の導入について予てより言及していたところ、改正運輸大臣令では配車アプリ会社による輸送サービスの基本料金と上限料金は管轄の知事又は運輸管理機関の長の提案に基づき国土交通局長によって決定することが規定され、2017年7月1日から運用が開始される。それに加えて、①配車アプリを使用した公共輸送サービスで使用できる自動車および車両の仕様、②配車アプリを使用した公共輸送車両であることを示すステッカー表示の義務付け、③特定の目的地向けにサービスを提供する公共輸送機関の車両割当量、④公道上での走行に関する適性検査の義務付け、⑤配車アプリを使用した公共輸送サービスを提供する法人名義での車両登録証明書の保持の義務付け、⑥保有車両を駐車するスペースの確保、⑦車両整備施設を保有又は確保の義務付け、等が新たな規制として盛り込まれた。

 配車アプリに対する業規制に加えて、地場の大手タクシー2社が配車アプリとの共存共栄の道を選択したことにより、今後配車アプリ会社と既存タクシー会社の対立が収束に向かうのか、今後の動きが注視されるところである。駐在員、出張者等の利用者の立場に立てば、これらの動きによりインドネシアのタクシーの利便性・安全性が向上することを期待したいところである。

 

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