シンガポール:日本・シンガポール競争当局間の協力覚書締結へ
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 長谷川 良 和
シンガポールでは、近年、国際カルテル事案を含め、競争法の執行が強化されつつある。2014年には、国際カルテル違反決定が日系ベアリングメーカー4社及びそのシンガポール子会社に対して出され、その後も日系含む運送会社及びそのシンガポール子会社等に対して価格協定及び不法な情報交換を理由とする競争法違反決定が出されている。
かかる状況下、2017年6月22日、公正取引委員会とシンガポール競争委員会は、両競争当局間の協力枠組みを設定し、それぞれの国の競争法の効果的な執行に貢献することを目的として、競争当局間の協力に関する覚書を締結した。当該覚書の概要は、次の(1)~(6)のとおりである(平成29年6月22日付け公正取引委員会作成の「シンガポール競争委員会との協力に関する覚書の締結について」より抜粋)。
- ⑴ 協力の目的
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両競争当局間の協力の枠組みを設定し,それぞれの国の競争法の効果的な執行に貢献することを目的とする。
- ⑵ 通報
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一方の競争当局は,他方の競争当局に対し,他方の競争当局の重要な利益に影響を及ぼす可能性があると認める自己の執行活動を通報する。
- ⑶ 情報交換
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一方の競争当局は,他方の競争当局に対し,他方の競争当局の執行活動に関連する情報を提供する。
- ⑷ 執行調整
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両競争当局は,同一又は相互に関連する事案に関して執行活動を行う場合には,それぞれの執行活動の調整について検討する。
- ⑸ 執行活動の要請
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一方の競争当局は,他方の競争当局の属する国において行われた反競争的行為が自己の重要な利益に悪影響を及ぼすと信ずる場合には,他方の競争当局に対し,適切な執行活動を開始するよう要請する。
- ⑹ 情報伝達
- 両競争当局は,競争政策及び競争法執行に係る重大な進展,競争法執行の経験等に関連する情報を交換又は提供する。
上記覚書は、シンガポール競争委員会にとっては、外国競争当局との間での初となる協力覚書であり、今後は当該覚書に基づいて日本・シンガポール競争当局間において執行活動に関する情報提供や執行活動の調整等の協力がなされ得る。当局の執行態度に変化が見られる以上、企業側もそれに応じて予防や危機対応策を講じること等が重要といえよう。