◇SH3514◇中国:民法典の担保制度の適用に関する最高人民法院の解釈(3・完) 川合正倫(2021/03/05)

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中国:民法典の担保制度の適用に関する最高人民法院の解釈(3・完)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

(承前)
 

3. 担保物権

(1)違法建築物

 担保制度司法解釈は違法建築物に設定される抵当権の効力を否定しているが、民事裁判が提起され一審における法廷弁論終了時までに適法な手続を履行した場合を例外としている。なお、建設用地使用権に適法な抵当権を設定した場合、当該土地に違法建築物があったとしても抵当権の効力は否定されない(同解釈第49条)。

 

(2)登記未了の動産抵当権

 民法典は、動産の抵当権について登記未了の場合は、善意の第三者に対抗できない旨を規定している(同法第403条)。この点に関し、担保制度司法解釈は、登記未了の動産抵当権の取扱いについて、さらに場合に分けて規定している(同解釈第54条)。

  1. ✓ 抵当権設定者が抵当財産を譲渡し、譲受人が抵当財産を占有した場合、抵当権者は抵当権の実行を請求できなくなる。但し、抵当権者が、譲受人が抵当権設定契約を知っていたこと又は知り得たことを証明すれば、当該譲渡は抵当権者による実行の請求に対抗できない。
  2. ✓ 抵当権設定者が抵当財産を賃貸し、賃借人に占有を移転した後、抵当権者が抵当権を実行しても、賃借人は引き続きもとの条件で賃借することができる。但し、抵当権者が、賃借人が抵当権設定契約の締結を知っていたこと又は知り得たことを証明すれば、賃借人は抵当権者に賃借権を対抗できない。
  3. ✓ 抵当権設定者の他の債権者が、裁判所に対し抵当財産の保全又は執行を申し立て、これに対して裁判所が財産保全の裁定を下した場合又は執行措置を講じた場合には、抵当権者は抵当財産からの優先弁済を主張できない。
  4. ✓ 抵当権設定者が破産する場合、抵当権者は、抵当財産からの優先弁済を主張できない。

 

(3)動産抵当物の正常な経営活動における処分

 民法典は、動産に抵当権を設定した場合であっても、正常な経営活動において合理的な対価を支払うことによって抵当財産を取得した買主に対しては対抗できないとしている(同法第404条)。担保制度司法解釈では、正常な経営活動について、売主(すなわち動産の抵当権設定者)の経営活動がその営業許可証に明確に記載される経営範囲内であり、かつ、売主が継続的に同類の商品を販売しているという条件を定めている。なお、買主に以下のいずれかに該当する状況がある場合は、正常な経営活動と認められず、買主は抵当権の対抗を受ける(同解釈第56条)。

  1. ✓ 購入した商品の数量が一般的な買主の購入数量を明らかに超える場合
  2. ✓ 売主の製造設備を購入する場合
  3. ✓ 売主又は第三者の債務履行を担保するために売買契約を締結する場合
  4. ✓ 買主と売主との間に直接又は間接の支配関係が存在する場合
  5. ✓ 買主が抵当権登記を確認すべきであるにもかかわらず確認しなかった場合

 

(4)売掛債権に対する質権設定

 民法典は売掛債権に対する質権設定について登記を発効要件として定めている(同法第445条1項)。担保制度司法解釈は、これに加え、質権者は、当該登記をするにあたって売掛債権が確実に存在することを確認する必要があり、かかる確認を行わずに登記のみを根拠として優先弁済を主張することは認められないとしている(同解釈第61条)。抵当権者には、優先弁済効力を実現するために民法典に定める条件以上の義務が実質的に課されている点に注意が必要である。

 

4. 非典型担保

(1)譲渡担保

 民法典は、抵当権や質権のほか、その他担保機能を果たす契約を締結することによって担保物権を設定することを認めているものの(同法第388条)、譲渡担保等の非典型担保に関し明確に定めていない。

 実務上は、債務者又は第三者が形式的に財産の所有を債権者の名義に移転し、債務不履行があった場合に債権者が当該財産の換価又は競売によって取得する代金から優先弁済を受けることができるという合意がなされる事例も存在する。この点に関し、担保制度司法解釈はいわゆる譲渡担保として有効性を認めている(同解釈第68条)。

 また、債務不履行があった場合に譲渡担保の対象となる財産が債権者に帰属すると合意は無効であり、債権者は当該財産の所有権を主張することができないが、担保の効力には影響を与えないとされている。この結果、債権者は、民法典の規定に基づき目的物の競売又は換価を行い、その取得代金からの優先弁済を受けることができる(同解釈第68条)。

 

(2)持分の譲渡担保

 株主が債務履行のために保有持分を債権者名義に変更することによって担保を提供する場合について、当該持分の名義変更の目的は持分譲渡ではなく、譲渡担保の設定にすぎないと考えられる。この場合について、当該持分の発行会社又はその債権者が、当該株主の出資義務の未履行を理由として当該株主及び譲渡担保権者である債権者の連帯責任を求めたとしても、当該持分の名義人である債権者の連帯責任は認められない(同解釈第69条)。譲渡担保権者である債権者は、名義上の株主としてその出資義務が否定されているため、当該債権者への保護を図る規定と考えられる。

 

5. 総括

 担保制度司法解釈は民法典との整合性を図りつつ、第九回会議紀要において明確化された司法審判の判断基準等も反映しているため、各地方裁判所による判断の統一が図られることが期待され、司法実務において重要な役割を果たすものと思われる。中国で事業を行う外商投資企業にとっても、担保提供や担保取得等の場面における審査体制及びリスクマネジメントにおいて改正対応が必要となるものと考える。

以 上

 


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(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

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