タイ:続・労働者保護法の改正(退職年齢の法定化を中心に)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 箕 輪 俊 介
タイの労働法関連の重要法令のひとつである労働者保護法について、今年に入ってから断続的に改正が続いている。先日の拙著にて紹介をした2017年4月4日施行の労働者保護法の一部改正に続いて、2017年9月1日に新たな労働者保護法の改正が施行されたので(以下、「本改正」という。)、本稿にて紹介したい。
1. 本改正の内容
本改正により、①退職年齢が法定化され、②最低賃金のカテゴリー制の導入(対象者が未成年、学生、高齢者等の場合には通常レートとは異なる最低賃金を導入すること)が決定された。
①退職年齢の法定については、就業規則や労働契約等で退職年齢が定められていない場合は退職年齢は60歳とすることが明文化された。就業規則や労働契約で別段の定めがある場合はそれが優先する。例えば、タイでは55歳を退職年齢としている例が多いが、就業規則等で退職年齢が55歳と定められていれば、55歳が当該会社の退職年齢となる。退職年齢を60歳以上とすることも可能であるが、かかる場合、60歳を超えた従業員には早期退職を選択する権利が与えられる。当該従業員は、当該早期退職権を行使することにより、法定の解雇補償金を会社より受け取ることができる(改正前は、早期退職を行う場合は自己都合退職として扱われるため、法定の解雇補償金を受領する権利を有することができなかった)。
②最低賃金のカテゴリー制の導入については、どのようなカテゴリーが導入されるか、どのようなレートになるのは未だ決まっておらず、今後政府により決定されることが予定されている。
2. 実務への影響
退職年齢の法定化については、退職年齢を定めていることが多い日系企業においては特段本改正が大きな影響を与えるとは思われないものの、60歳を超えた従業員に解雇補償金の取得を保証したこと及び60歳以上の従業員について解雇補償金付の早期退職権を付与したことは、押さえておくべきポイントといえるだろう。
最低賃金のカテゴリー制の導入は、カテゴリーの種類やそのカテゴリー毎のレートの差異次第によっては実務に影響を与えうるので、今後どのような施策が講じられるのかを注意をしておく必要があるものと考えられる。
3. 今後予想される改正
本改正に加えて、その他の労働者保護法の条項についても順次改正することが検討されている。先般拙著にて紹介した、解雇補償金の料率の見直しについても先般閣議決定がなされ、現行法上の最高料率である10年以上の勤務経験のある従業員に対する300日分の解雇補償金の支払いに加えて、20年以上の勤務経験のある従業員に対して400日分の解雇補償金の支払いが規定される方向で調整がなされている。また、タイは日本以上に出生率が低く社会問題となっているため、出産・育児の環境を整えるべく、出産休暇の改正についても産前の定期検診が出産休暇の対象になることが閣議決定されており、これに加えて、出産休暇の長期化(現行法の90日(うち有給休暇は45日)から180日)も検討がなされている。いずれも重要な改正となりうるので、今後も労働者保護法の改正状況については注視されたい。