タイ:タイにおける民泊規制の現状
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 箕 輪 俊 介
インターネットを通じて資産・空間・技能等を個人間で共有するシェアリングエコノミーはタイにおいても広がりを見せており、その代表例の一つである「民泊」は、観光業が重要な産業の一つとなっているタイでも様々なプラットフォーマーが提供するサービスを通じて多く利用されている。日本では住宅宿泊事業法(以下、「民泊新法」という。)が来年6月に施行されることに伴い、プラットフォーマー、ホスト双方に関する法規制が見直されることとなっているが、タイ法上はどのような法規制が設けられているのか、本稿にて紹介したい。
(1) プラットフォーマーに対する規制
日本では、民泊新法の施行に伴い、民泊を利用するゲスト及び民泊施設を提供するホストを結びつける場(主にインターネット上のウェブサイトが想定される)を提供する業者(プラットフォーマー)は当局(国土交通省)により管理されることとなり、かかる業務を行うにあたってプラットフォーマーは住宅宿泊管理業者として登録される必要がある。
これに対して、タイでは、私法上の責任は別にあるものとして、未だプラットフォーマーに対する規制(許認可の取得等の公法上の責任)は設けられていない。
(2) ホストに対する規制
業法規制
宿泊施設の提供に関しては、日本の旅館業法に対応する法令としてHotel Act(B.E. 2547 (2004)、その後の変更を含む)が存在する。この法令上、“Hotel”に該当する施設にて宿泊サービスを提供する場合は、ホテル業のライセンスを取得することが求められている。
但し、2008年に定められた下位規則により、(i)宿泊施設を提供する者が提供している部屋の数が4部屋以下であり、(ii)当該部屋にて宿泊できる人数の最大数が20名以下であり、かつ、(iii)当該宿泊施設の提供が当該者のサイドビジネスに留まる限り、当該宿泊施設の提供は、例えかかる施設がHotel Act上の“Hotel”に該当する場合も、“Hotel”として扱わず、かかる者はホテル業のライセンスを取得することなく宿泊サービスの提供が可能とされている。
民泊制度におけるホストの多くは上記要件を充たすものと思料される。かかる規定はそもそもホームステイを促進するために設けられたものであるが、かかる例外規定の適用を受けるためにホームステイであることは要件とされていない。したがって、上記要件を充たす限り、民泊制度におけるホストはホテル業のライセンスを取得する必要はないものと解される(なお、民泊新法で規定される住宅宿泊事業者の届出制度のような制度は未だタイ法上は設けられていない)。
上記例外規定において、部屋数を数える際に、当該部屋は同じ建物にある必要はなく、ホストが複数の物件にて宿泊サービスを提供している場合には、複数の物件にまたがって部屋数を数える必要がある。したがって、ホストが複数の物件を使用して5部屋を超える宿泊サービスを提供している場合は上記の例外は適用されず、ホテル業のライセンスを取得する必要がある。
ホテル業のライセンスを取得するためには、Building Control Act B.E. 2522 (1979)、その後の変更を含む)上、使用する建物がホテルとしての建設許可等を取得していることが要件のひとつとされている。コンドミニアム等はホテルとしての建設許可等を取得していないことが通常であるため、ホテル業のライセンスを取得するためには、そういったホテル業のライセンスを取得する上で障害となる物件を使用物件の対象から除外する必要が生じる。
コンドミニアム規則上の規制
更に、ホストがコンドミニアムの一室を利用して宿泊サービスを提供する場合、かかる宿泊サービスの提供がコンドミニアムの利用規則上許容されているかを確認しなければならない。タイの多くのコンドミニアム物件では、旅行者の利用による騒音被害やセキュリティの問題等からその利用規則において、宿泊サービスの提供や第三者への転貸を禁止しているものも多い。また、現行利用規則ではかかるサービスの提供が許容されている場合も、かかる規則はコンドミニアムのユニット所有者により構成される総会によって改訂できることが通常であるため、注意が必要である。
外資規制
タイにおいては、サービス業は原則として外国人事業法上外資規制の対象となる。賃貸借もサービス業の一環として解されているため、ホストが外国人である場合には、かかる宿泊サービスの提供は外資規制の対象となり、商務省の許可を取得しない限り、原則としてかかる宿泊サービスの提供は許容されていない点についても留意されたい。