デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書
――チャットを利用した勧誘の規制等の在り方――
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 井 上 乾 介
弁護士 福 山 和 貴
1 はじめに
昨今のデジタル化の進展に伴い、通信販売において消費者と事業者の接触が一層容易となり、消費者と事業者がSNSのメッセージを利用したやり取りを行った結果、当事者が事業者と接触した際の動機とは異なる契約の締結に至るといったトラブルが多発している。
消費者委員会は、特に消費者生活相談の事例が多く見られる、当該トラブルのような、いわゆるチャット(以下「チャット」という。)を利用した勧誘による販売の特定商取引に関する法律(昭和51年法律57号。以下「特商法」という。)の規制等の在り方を中心に検討を重ね、その結果を、「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書(チャットを利用した勧誘の規制等の在り方について)」(以下「本報告書」という。)に取りまとめた[1]。
本報告書は、今後の特商法の改正を見据えたものとなっており、実務にも影響が及びうるものなので本稿にて紹介する。
2 本報告書作成の背景・経緯
⑴ 消費者委員会の概要と位置付け
消費者委員会とは、独立した第三者機関として、内閣総理大臣が任命した委員(10人以内)で構成される組織であり、活動としては、①各種の消費者問題について自ら調査・審議を行い、消費者庁を含む関係省庁の消費者行政全般に対して意見表明(建議等)を行い、②内閣総理大臣、関係各大臣または消費者庁長官の諮問に応じて調査・審議を実施している[2]。
消費者委員会は、あくまで調査・審議を行い、意見表明を行う主体であって、消費者委員会自身が直接立法に関与したり、立法プロセスの過程で権限を有したりするわけではない。消費者委員会の位置付けについては下記イメージ図を参照されたい[3]。
出典:「消費者委員会について」(内閣府)[4]
⑵ 背景・経緯
消費者委員会は、2022年1月28日の第363回消費者委員会本会議において、「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ」(以下「WG」という。)を設置し、WGは同年8月に「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書」(以下「令和4年報告書」という。)を取りまとめた。令和4年報告書を踏まえて、同委員会は同年9月に「SNSを利用して行われる取引における消費者問題に関する建議」(以下「令和4年建議」という。)および「SNSを利用して行われる取引に関する消費者委員会意見」を発出した。令和4年建議において、積極的な勧誘がなされる通信販売における規制等の検討の必要性の指摘がなされた。
上述のとおり、消費者と事業者がSNSのメッセージを利用したやり取りを行った結果、消費者が事業者と接触した際の動機とは異なる契約の締結に至るトラブルが多発している。現状、このような事業者の行為には通信販売における広告規制がかかり、上記のような訪問販売や電話勧誘販売に類似する特徴に十分に対応し得る規制であるとは言えない。現状における「チャットを利用した勧誘による販売」の特商法の位置付けは下図のとおりである。
出典:本報告書2頁
このような背景・経緯から、消費者委員会は2023年1月からWGを再開し、本報告書を取りまとめるに至った。
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(いのうえ・けんすけ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。
(ふくやま・かずき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。一橋大学法学部・一橋大学法科大学院卒業。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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