米財務省、マネーロンダリング防止法および制裁法違反により
バイナンスと合計約43.7億ドルの制裁金支払いで和解
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 藤 田 将 貴
弁護士 山 下 舞
1 はじめに
2023年11月21日、米国財務省は、暗号資産(仮想通貨)交換業で世界最大手の「バイナンス」がマネーロンダリング規制法および制裁法違反を認め、約43億ドル(約6,400億円(執筆当時のレート))の制裁金を司法・金融当局に支払うことで同社と合意したと発表した[1]。当該金額は、企業が当局に支払う制裁金として過去最大規模である。また、同社は、当局による5年間の監視や米国からの完全な事業撤退も求められた。
以下では、本事案の概要について説明するとともに、バイナンスが前例のない巨額の制裁金を支払うことになった背景等について概説する。
2 本事案の概要
⑴ バイナンスに対する責任追及
バイナンス・ホールディングス・リミテッド(Binance Holdings Ltd.)とその関連会社(以下、総称して「バイナンス」という。)は、米国を除く地域で「Binance.com」と呼ばれる世界最大の暗号資産取引所を展開しており、中央集権型暗号資産スポット取引の推定60%を担っている。当該暗号取引所は、VPNなどを通じて米国でも事実上サービスを利用できる状況にあった。
米国財務省は、金融犯罪取締ネットワーク(Financial Crimes Enforcement Network、以下「FinCEN」という。)、外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control、以下「OFAC」という。)、および内国歳入庁(IRS)の犯罪捜査部(Criminal Investigation、以下「CI」という。)を通じて、バイナンスに対し、マネーロンダリング規制にかかる銀行秘密保護法(Bank Security Act: BSA)ならびに複数の制裁法違反について民事上の責任を追及した[2]。
当該違反には、①テロリスト、ランサムウェア攻撃者、マネーロンダリング、およびそのほかの犯罪者との疑わしい取引を防止し報告するプログラムを実施しなかったこと、②米国のユーザーと、イラン、北朝鮮、シリア、ウクライナのクリミア地域等の制裁対象地域のユーザーとの取引をマッチングさせたこと等が含まれる(違反内容の詳細は、後記⑶を参照されたい)。
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(ふじた・まさき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2003年早稲田大学法学部卒業。2006年京都大学法科大学院修了。2007年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年University of California, Berkeley(LLM)修了。2017年ニューヨーク州弁護士登録。大手総合商社法務部への出向経験を有する。経済安全保障・通商(米国・英国・EUの経済制裁及び貿易管理を含む)、M&A、事業再生分野を中心に取り扱う。主な著書・論文:『英文M&Aドラフティングの基礎』(共著)(金融財政事情研究会、2023)、「グローバル法務 日本企業が対応すべき世界の経済安全保障と人権の課題」(共著)会社法務A2Z 2023年1月号、「米国の経済制裁の基礎知識と実務対応のポイント」(Business Lawyers(ウェブサイト)、2022)、「米国による懸念国向け半導体関連輸出規制の強化」(商事法務ポータル、2023)、「米財務省 CFIUS2022年次報告書を公表」(商事法務ポータル、2023)ほか多数。
(やました まい)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2021年慶應義塾大学法科大学院卒業。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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