インド:保険法改正政令
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 山 本 匡
インドの保険会社に対する外国直接投資は認められているものの、1938年保険法(Insurance Act, 1938)により、投資上限が26%までと制限されている。2008年保険法改正案(Insurance Laws (Amendment) Bill, 2008)が議会に提出されてから長期間にわたり、この投資上限の49%までの引き上げが図られていたが、議会の2014年のWinter Sessionでも同法案は承認されなかった。
しかしながら、政府(モディ政権)はこの投資上限の緩和について、強い必要性を感じており、政令により上限を緩和することを決定した。すなわち、インド憲法(The Constitution of India)上、議会両院が開会されている場合を除き、大統領が早急な行動を採らなければならない状況が存在すると判断する場合、必要とする政令(Ordinance)を定めることができるとされており、この政令は、議会の定めた法律と同様の効力を有する(ただし、議会開会から6週間以内にその承認を得ることを要する。)。
そして、2014年12月26日に2014年保険法(改正)政令(Insurance Laws (Amendment) Ordinance, 2014)が公表され、投資上限の49%までの緩和等が行われた。外国直接投資規制の緩和という意味において、好ましい動向といえよう。
しかしながら、注意を要する点もある。特に、同政令において、インドの保険会社の「支配権(control)」をインド国民が有する必要があるという旨の規定が新たに加えられた点には注意を要する。ここで、支配権には、株主間契約等により、取締役の過半数を選任する権利及び経営または意思決定を支配する権利が含まれる。この点、実務上、株主間契約(合弁契約)において、一定の重要事項についての株主(合弁当事者)の拒否権を定めるのが通常であるところ、このような、消極的支配(ネガティブ・コントロール)が上記支配権に含まれるのか、同政令上必ずしも明らかでない。
紙面の都合上、詳細を説明することはできないが、インドの公開買付けに関する規制(2011年インド証券取引委員会(株式の大量取得及び買収)規則(Securities and Exchange Board of India(Substantial Acquisition of Shares and Takeovers)Regulation, 2011))に定められている、上記と同じ内容の「支配権(control)」の解釈につき、ある特定の事案において、証券市場の監督機関であるインド証券取引委員会(Securities and Exchange Board of India)の判断と、準司法機関である証券控訴裁定所(Securities Appellate Tribunal)の判断とは、それぞれ肯定・否定と分かれている(なお、当該事案ではインド証券取引委員会が上告したが、最高裁判所の判決前に和解が成立したために上告は却下されており、証券控訴裁定所の判断は先例としての拘束力を有しない。なお、最高裁判所も先例拘束力を認めない旨言及している。)。また、競争法当局であるインド競争委員会(Competition Commission of India)は、消極的支配が、2014年保険法(改正)政令に定める「支配権」と類似の意味を有すると思われる、2002年競争法(Competition Act, 2002)に定める「支配権(control)」に該当し得るという立場をとっている。
保険業の監督機関であるインド保険規制開発庁(Insurance Regulatory and Development Authority of India)が、この点についてどのような見解であるのか、現段階では不明である。仮に消極的支配も「支配権」に含まれるのであれば、インドの保険会社に対する既存の投資にも影響を及ぼす可能性があるため、明確化が期待される。
その他、2000年外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 2000)に基づく規則及び外国直接投資政策(FDI Policy)の改正や、政府の承認の要否等の明確化も今後必要となる。
そのため、上記政令にかかわらず、現段階ですぐに投資割合を49%まで引き上げることはできない(または少なくとも現実的でない。)と思われる。