◇SH3153◇中国:最高人民法院の新型肺炎ウイルスに関する指導意見 川合正倫(2020/05/20)

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中国:最高人民法院の新型肺炎ウイルスに関する指導意見

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 2019年12月に中国武漢において新型コロナウイルス(以下、「新型コロナ」という。)の感染者が発見されて以降、中国政府は新型コロナの蔓延を抑制するため、武漢の都市封鎖に代表される厳格な防疫措置を講じた。この結果、企業は資金繰りの悪化、締結済契約の履行不能等に陥り、民事紛争が生じやすい状況が生じている。

 このような状況を踏まえ、中国の各地方の高級人民法院は、新型コロナに関わる民商事案件の審理について各種の文章を公布していたが、最高人民法院は、2020年4月16日付で不可抗力等の重要事項に関して「新型肺炎ウイルスに関連する民事案件の法律に従う適切な審理の若干の問題に関する指導意見(一)」(以下、「指導意見」という。)を公布した。

 指導意見は、新型コロナに関連する最高人民法院による最初の指導意見であり、全国の人民法院が民事案件の審理において従うべき指導内容として、非常に重要な意義があると思われる。本稿は、特に中国事業に携わる外資系企業にとって留意すべき指導意見のポイントについて解説する。

 なお、本稿の執筆にあたっては中国律師の万鈞剣弁護士の協力を得た。

 

1.不可抗力の適用可否

 指導意見は、新型コロナ及び政府の防疫措置(以下、「新型コロナ措置等」という。)によって契約を履行できない当事者が不可抗力を主張できるかという点について、新型コロナ措置等によって直接的な影響を受ける場合は、不可効力に該当しうるという見解を示している。ただし、不可抗力の適用は厳格に取り扱うべきとし、また、不可抗力を主張する当事者は挙証責任を負い、新型コロナ措置等によって自らの契約義務を履行できないことを証明する証拠が必要としている(指導意見第二条)。

 

2.契約紛争案件の個別対応

 上記1のとおり、指導意見は不可抗力の適用余地を認めているものの、一律に不可抗力に基づく契約責任の免除や契約解除を認めるのではなく、以下の通り、場合を分けて取り扱う旨を明らかにしている(指導意見第三条)。

  1. (i) 新型コロナ措置等によって契約の履行が不可能となった場合、影響の程度に従い契約責任の全部又は一部を免除する。但し、契約不履行又は損失拡大について帰責事由が存在する当事者は、相応の責任を負担し、また、迅速に通知義務を履行したことを証明する必要もある。
  2. (ii) 契約の目的が実現できない場合は契約解除が可能であるが、継続履行が可能であれば契約解除の主張は基本的に認められず、和解又は調停を推奨するとされている。なお、契約の継続履行が当事者一方にとって明らかに不公平である場合、履行の期限、方法及び金額等についての変更請求が認められる余地がある。

 また、当事者が新型コロナ措置等によって政府機関からの補助金、免税又は資金援助若しくは債務免除等の支援を受けた場合、人民法院は、契約の継続履行の可否に関する判断にあたって参考要素とする。

 指導意見の以上の内容は、民法総則及び契約法等に基づく不可抗力及び事情変更の原則の適用の余地を認めつつも、その適用は法律に従い慎重に行われるべきであること、また、契約当事者は協議による履行の継続を優先すべきことを強調しており、新型コロナウイルスの影響下においても法的安定性を維持しながら当事者間の公平を図る姿勢が示されているものと評価できる。

 

3.従業員の雇用保障

 新型コロナに関し、国務院の人力資源社会保障部は2020年1月24日付で「新型コロナウイルス感染の肺炎疫病予防期間における労働関係の問題の適切な処理に関する通知」を公布している。本指導意見第四条はこの通知の趣旨を再確認し、企業等の雇用主に対して、労働者が新型コロナ感染者、感染が疑われる者、無症状の感染者、法律に従い隔離される者又は疫病の状況が相対的に重大である地域の者であることのみをもって解雇をすることを禁じている。また、各地方における新型コロナ関連政策が適用される旨を明らかにしている。

 

4.訴訟時効

 指導意見は、新型コロナ措置等によって訴訟時効満了前の6ヶ月間に請求権を行使できない場合には、民法総則第194条1号に従い訴訟時効の停止を主張することが可能としている(指導意見第六条)。

 この点、時効停止事由の消滅から改めて訴訟時効が進行することになるため、新型コロナ措置等が解消してから6ヶ月以内に訴訟提起や仲裁申立を行う必要がある点には注意が必要である。

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