- 1 振替口座簿に開設された被相続人名義の口座に記載又は記録がされている振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令の適否
- 2 振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分について譲渡命令を発することの許否
- 1 振替口座簿に開設された被相続人名義の口座に記載又は記録がされている振替株式、振替投資信託受益権及び振替投資口が共同相続された場合において、その共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は、当該振替株式等について債務者名義の口座に記載又は記録がされていないとの一事をもって違法であるということはできない。
-
2 執行裁判所は、譲渡命令の申立てが振替株式、振替投資信託受益権及び振替投資口の共同相続により債務者が承継した共有持分についてのものであることから直ちに当該譲渡命令を発することができないとはいえない。
(2につき補足意見がある。)
(1、2につき) 社債、株式等の振替に関する法律66条、121条、128条1項、226条1項、民法896条、898条
(1につき) 民事執行規則150条の2
(2につき) 民事執行規則150条の7第1項1号
平成30年(許)第1号 最高裁平成31年1月23日第二小法廷決定 譲渡命令に対する執行抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 破棄差戻(民集73巻1号65頁)
原 審:平成29年(ラ)第970号 大阪高裁平成29年12月4日決定
原々審:平成28年(ヲ)第3073号 京都地裁平成29年7月3日決定
1
債権者であるXは、社債、株式等の振替に関する法律(以下「社債等振替法」という。)2条4項に規定する口座管理機関1社が備える振替口座簿に開設した亡A(被相続人)名義の口座に記録されたままの株式、投資信託受益権及び投資口につき、Yを含む亡Aの相続人5名により共同相続され、Yがそれらの共有持分(以下「本件持分」という。)を有するとして、Yを債務者として、本件持分に対する差押命令(以下「本件差押命令」という。)の申立てをし、本件差押命令を得た(本件差押命令には具体的な理由の記載はなかった。なお、Yは本件差押命令に対する執行抗告を申し立てなかった。)。
本件は、Xが本件差押命令により差し押さえられた本件持分につき譲渡命令の申立てをした事案である。
2
原々決定は本件持分につき譲渡命令を発した(原々決定に具体的な理由の記載はなかった。)。これに対し、Yが原々決定の取消しと本件申立ての却下を求めて執行抗告を申し立てたところ、その抗告理由は、Xの代表者であるCにはXの正当な代表権がないから、XがCを代表者として申し立てた本件申立ては不適法であるということのみであった。
原決定は、職権により、要旨、後記⑴及び⑵のとおり判断し、本件申立ては不適法であるとして、原々決定を取り消し、本件申立てを却下した(なお、上記抗告理由については排斥されている。)。
⑴ 社債等振替法が同法2条1項に規定する社債等であって振替機関が取り扱うもの(以下「振替社債等」という。)についての権利の帰属は振替口座簿の記載又は記録(以下併せて「記録等」という。)により定まり、振替口座簿における増額又は増加の記録等が振替社債等の譲渡の効力要件とされていること等に照らし、振替社債等に関する強制執行の手続において、執行裁判所は、債務者が差押命令の対象となる振替社債等を有するか否かを振替口座簿の記録等により審査すべきであり、債務者以外の者の口座に記録等がされている振替社債等につき、振替口座簿の記録等以外の資料によって債務者に帰属することを証明してその差押命令を求めることは許されないところ、本件持分に係る株式、投資信託受益権及び投資口はY名義の口座に記録等がされていないから、本件差押命令は違法である以上、本件申立ては不適法である。
⑵ 共同相続された振替社債等につき、共同相続人全員の名義の口座に記録等をすることはできるとしても、共同相続人の1人の名義の口座にその共有持分の記録等はできず、当該共有持分につき譲渡命令が確定しても、これによる譲渡の効力を生じさせることはできないから、そのような譲渡命令を発することはできない以上、本件申立ては不適法である。
3
原決定に対し、Xが抗告許可の申立てをしたところ、原審はこれを許可した。
本決定は、本件申立ての対象が振替株式、振替投資信託受益権及び振替投資口(以下併せて「振替株式等」という。)であることを踏まえ、まず、被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分に対する差押命令は、当該振替株式等について債務者名義の口座に記録等がされていないとの一事をもって違法であるとはいえない(決定要旨1)として、原決定の前記2⑴の判断を是認することができないものとし、次に、執行裁判所は、譲渡命令の申立てが振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分についてのものであることから直ちに当該譲渡命令を発することができないとはいえない(決定要旨2)として、原決定の前記2⑵の判断もまた是認することができないものとして、原決定を破棄し、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した。
4
株式の流通を容易かつ確実にし、株主の会社に対する権利関係を明確にするための法技術として株式が有価証券化されているが、多数かつ頻繁に株式の譲渡が行われる場合には、その都度株券の引渡しを行うことは困難である。そこで、株券等の保管及び振替に関する法律(昭和59年法律第30号。以下「保管振替法」という。)の制定により株券保管振替制度が立法化され、保管振替法に基づき、上場株式等の譲渡及び質入れは、現実の株券の交付に代え、保管振替機関に預託された株券につき、口座簿の振替の記載をもって株券の交付があったのと同一の効力を発生させる方式でも行えるものとされた。他方、証券取引のグローバル化の進展に伴い、国際的な市場間競争が激しくなる中、市場参加者の証券決済に係るリスク及びコストの低減や利便性の向上を図ることは、我が国の証券市場の安定的な発展や国際競争力の強化にとって不可欠であり、株券をはじめとする有価証券の種類をまたがる統一的な証券決済法制の構築が極めて重要かつ喫緊な政策課題であったが、一度の法制化は困難であった。そこで、法制化がより迅速に求められていたCP(コマーシャルペーバー)のペーパーレス化を行うため、これを短期社債等と規定して振替制度を設ける「短期社債等の振替に関する法律」(平成13年法律第75号。以下「短期社債振替法」という。)が制定され、平成14年4月に施行された。次に、振替制度の対象を一般の社債券、国債証券等の純粋な金銭債権に拡大するとともに、振替を行う機関として振替機関に加えて口座管理機関を導入し、多層構造での保有制度を創設し、短期社債振替法を「社債等の振替に関する法律」(以下「旧社債等振替法」という。)に改めること等を内容とする「証券決済制度等の改革による証券市場の整備のための関係法律の整備等に関する法律」(平成14年法律第65号)が制定され、平成15年1月に施行された。その後、株式等につきペーパーレス化を実現し、全ての有価証券を対象とする統一的な証券決済制度を完成する「株式等に取引に係る決済の合理化を図るための社債等の振替に関する法律等の一部を改正する法律」(平成16年法律第88号。以下「決済合理化法」という。)が制定され、旧社債等振替法は社債等振替法に改められ、株式等についても従来の保管振替制度から新しい振替制度へ移行することになり、平成21年1月に施行された。これに伴い、保管振替法は廃止された。(以上につき、高橋康文編著『逐条解説 新社債、株式等振替法』(2006、金融財政事情研究会)2頁~7頁、神田秀樹監修・著『株券電子化-その実務と移行のすべて』(2008、金融財政事情研究会)8頁~9頁等)
5
ところで、保管振替法、短期社債等振替法及び旧社債等振替法において、その対象に係る強制執行等に関し必要な事項は最高裁判所規則で定めることとされ、その強制執行の手続に関する具体的な規定は、民事執行規則の中に設けられていた。同様に、社債等振替法においても、振替社債等に関する強制執行等に関し必要な事項は最高裁判所規則で定めることとされ(280条)、これを受け、民事執行規則及び民事保全規則の一部を改正する規則(平成20年最高裁判所規則第20号)が平成20年11月に公布され、決済合理化法の施行に合わせて施行された。そして、振替社債等に関する強制執行につき、民事執行規則150条の2から150条の8までにおいて規定されるに至った(なお、その規定の一部は、令和元年最高裁判所規則第5号により改正された。)。
本件の関係規定(本決定当時)をみると、振替社債等に関する強制執行は執行裁判所の差押命令により開始し(令和元年最高裁判所規則第5号による改正前の民事執行規則150条の2。なお、令和元年最高裁判所規則第5号による改正後もこのことに変更はない。)、その換価方法の1つとして譲渡命令(同規則150条の7第1項1号)が設けられているところ、振替社債等についての譲渡命令は確定しなければその効力を生じず(同規則150条の7第3項)、振替社債等についての譲渡命令が確定した場合においては、差押債権者の債権及び執行費用は、当該譲渡命令が振替機関等に対して送達された時に執行裁判所の定めた譲渡価額で弁済されたものとみなされ(令和元年最高裁判所規則第5号による改正前の民事執行規則150条の7第6項、民事執行法160条。なお、令和元年最高裁判所規則第5号による改正後もこのことに変更はない。)、振替社債等についての譲渡命令が確定したときは裁判所書記官が振替機関等に対して振替の申請をするものとされている(令和元年最高裁判所規則第5号による改正前の民事執行規則150条の7第4項)。そして、差押債権者は譲渡命令による振替を受けるためにあらかじめ自己名義の口座を開設しておく必要があるとされている(東京地方裁判所民事執行センター実務研究会編著『民事執行の実務・債権執行編(上)〔第3版〕』(2012、金融財政事情研究会)279頁~280頁)。
6
本件においては、まず、債務者の共同相続した振替株式等が被相続人名義の口座に記録等がされたままである場合に、債権者が当該共同相続の事実を立証したときであっても、当該債務者の共有持分を差し押さえることができないか否かが問題となる。
この点につき、最高裁判例はなく、また、明示的な判断をした下級審裁判例も本件の原決定以外には見当たらない。また、学説上もこの点に関する議論がされていたとはいい難いところである。
この点、保管振替法の下における預託株券等執行につき、当時の民事執行規則の立案担当者によって、預託株券等執行は、保管振替制度において口座簿の記載により株券等の占有者としてみなされる者を執行債務者とした強制執行手続であり、保管振替制度における口座簿の名義人でない真の権利者を債務者とする強制執行は予想するところではないと説明され(佐藤歳二=三村量一『預託株券等執行 新・電話加入権執行手続の解説――民事執行規則の一部を改正する規則の解説』(1987、法曹会)22頁~23頁)、また、旧社債等振替法の下における振替社債等執行についても同様に、社債等振替制度において振替口座簿の記録等により社債等の権利者と推定され、他の口座への振替の申請をするなどする権利を有する加入者を債務者とした強制執行手続であるところ、その対象につき誰が権利者として旧社債等振替法上の権利を有するかは専ら振替口座簿上の名義により決せられるから、振替口座簿に社債等の権利者として記録等がされた加入者以外の者が真の権利者であっても、その者を債務者とする強制執行は予想するところではないとの説明がされている(最高裁判所事務総局民事局監修『条解民事執行規則〔第3版〕』(2007、司法協会)560頁~561頁)ところ、社債等振替法の下における民事執行規則においても、上記の各説明に現れているような基本的な考え方に特に変更はないものと思われる。原決定は、この考え方を相続の場面にもそのまま及ぼして、相続人の口座に記録等がされていない、相続された株式、投資信託受益権及び投資口については、当該相続人に帰属しているとはいえない以上、当該相続人を債務者とする強制執行を行うことができないものと解したものと思われる。
しかし、振替株式の相続について見ると、相続は社債等振替法140条にいう「譲渡」に含まれず、社債等振替法には相続の効力につき特に規定を置いていない以上、民法の一般原則のとおり、振替手続を経なくても相続開始時に包括的に被相続人から相続人に承継されると解されており(大野晃弘ほか「株券電子化開始後の解釈上の諸問題」旬刊1873号(2009)54頁、神田秀樹「振替株式制度」江頭憲治郎編『株式会社法大系』(2013、有斐閣)169頁、江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』(2017、有斐閣)220頁等)、このことに特に異論は見当たらない。また、振替株式の相続の場合に、相続人が当該振替株式に関する実体的権利と共に被相続人の「加入者」(社債等振替法132条2項)、すなわち口座管理機関等が振替株式の振替を行うための口座を開設した者としての地位を承継し、被相続人に代わって加入者として振替手続の申請をすることができると見解があり(大野晃宏ほか・前掲55頁、小松岳志「講演 振替法における株式実務上の諸論点」東京株式懇話会会報699号(2009)24頁)、このことにも特に異論は見当たらない。これらを前提とすれば、相続された振替株式は、被相続人名義の口座に記録等がされたままであっても、相続人に実体的権利が帰属するのみならず、当該相続人の口座に記録等がされているのと同視することができ、振替口座簿の記録等によっても当該相続人に帰属しているということができるものと考えられ、これにつき、当該相続人を債務者として強制執行を行うことを妨げるべき理由はないというべきである。そうすると、被相続人名義の口座に記録等がされたままの、債務者が相続した当該振替株式について、債権者によって当該相続の事実が証明されたにもかかわらず、形式的に債務者名義の口座に記載等がされていないというだけで、当該相続人を債務者として当該振替株式の差押命令を発することができないとは解するのは相当でないものと考えられる。なお、前記のとおりの保管振替法の下における民事執行規則の立案担当者の説明等は、振替口座簿における記録等が譲渡の効力要件であることも根拠としており、「譲渡」に当たらない相続についてまでは念頭に置いたものではないと見ることは十分に可能であるように思われる。
以上につき、振替投資口及び振替投資信託受益権に関しても、振替株式と性質が大きく異なるものとはいえず、振替株式におけるのと別異の考え方を採用すべきとする理由は特に見当たらないものと考えられるし、振替株式等の単独相続の場面であるのか共同相続の場面であるのかによって、区別して考える理由も特に見当たらないものと考えられる。そもそも、共同相続された振替株式等の共有持分につき差押えができないとすれば、法に規定のない差押禁止財産を創出することになって、およそ相当とはいい難いし、そのような共有持分はそれ自体に価値があり、強制執行の対象とする意味がないともいえないものと思われる。
以上のような検討を踏まえ、本決定は決定要旨1のとおり判断したものと考えられる。
7
本件においては、次に、執行裁判所において、共同相続された振替株式等に係る共同相続人の1人の共有持分につき譲渡命令を発することができないか否かが問題となる。
この点につき、当審判例はないし、また、明示的な判断をした下級審裁判例も本件の原決定以外には見当たらない上、これまで学説上も全く議論されていなかったところである。
まず、本件とは異なり、債務者が被相続人名義の口座に記録等がされた振替株式等を単独相続した場合について見ると、当該振替株式等につき譲渡命令を得た差押債権者において、任意の口座管理機関との間の契約によって自己名義の口座の開設を受け(もとより、かかる口座の開設を受けるための手続については、当該差押債権者が単独で行うことができるのは明らかであろう。)、当該譲渡命令が確定した後に裁判所書記官が当該口座への振替申請をして当該振替株式等に係る振替手続を行うという手順を踏むことを容易に想定することができ、口座管理機関においても、そのような振替手続に応じない理由はないと思われる。そうすると、上記の場合において、当該差押債権者が当該振替株式等につき得た当該譲渡命令を得たにもかかわらず、当該振替株式等につき当該被相続人名義の口座から当該差押債権者の口座に振替を行うことができないという事態が生ずることは想定されず、当該振替株式等につき譲渡命令を発することができないなどと解する根拠はないものというべきである。
これに対し、本件は、債務者が被相続人名義の口座に記録等がされた振替株式等を共同相続した場合であるところ、原決定は、共同相続人の1人の名義の口座に当該振替株式等に係る共有持分の記録等はできず、当該共有持分につき譲渡命令が確定しても、これによる譲渡の効力を生じさせることはできないことを根拠に、当該共有持分につき譲渡命令を発することができないとしたものである。
確かに、振替株式等の共有持分のみを取り出して別の口座への振替手続ができるとする考え方は見当たらない(阿多博文「株券電子化と各種手続⑴――特別口座、株式譲渡、相続・遺贈等について」NBL897号(2009)42頁は、振替株式につき、「1株未満に振り分けた振替はできない。」とする。)。他方、社債等振替法の下において、振替株式等につき、共有者全員の名義の口座(以下「共有口座」という。)の開設が法的に可能であるとの見解があり(高橋編著・前掲148頁、阿多・前掲42頁、小林英治「振替債の取引における法的諸問題の検討」金法1848号(2008)53頁)、このことに特に異説は見当たらないところである。そうすると、仮に振替株式等についての譲渡命令において、振替株式等の権利の移転は振替手続を行うことにより効力が生ずると解したとしても、譲渡命令の対象である、共同相続された振替株式等に係る共同相続人の1人の共有持分について、その余の共同相続人の共有持分と併せて、被相続人名義の口座から債務者以外の共同相続人全員と差押債権者の共有口座への振替手続を行うことにより、譲渡命令による権利の移転の効力を生じさせることができると解することが可能であるように思われる。そうすると、共同相続人の1人の名義の口座に振替株式等に係る共有持分の記録等はできないというだけで、当該共有持分につき譲渡命令を発することはできないと直ちに解することはできないように思われる。もっとも、口座の開設のためには口座管理機関との間で契約を締結することが必要であるが、口座管理機関においては、現状、共有口座の開設が広く行われていない可能性があること(阿多・前掲42頁には、「管理等の事情から、共同名義の口座はほとんど開設されたことがないようである」との指摘がある。もとより、口座管理機関に対して口座の開設を強制する手段は、法律上規定されていない。)、共有口座の開設には債務者以外の共同相続人全員の協力を得ることが必要であることからすれば、上記のような振替手続を実現することには実際上の問題がないとはいえないところである(ただし、本件では、XはY以外の亡Aの共同相続人から協力を得られる関係にあったようである。)。しかし、少なくとも、共同相続された振替株式等につき、共同相続人の1人の有する共有持分につき譲渡命令を得た差押債権者と債務者以外の共同相続人全員との間において、当該譲渡命令を踏まえた振替手続が行われていない場合であっても、共有物分割を行う余地がないとまで解する理由はなく、当該譲渡命令が確定してもこれによる譲渡の効力が何ら生じないとまではいえないものと思われる。実質的にみても、振替株式等の共有持分は法令上譲渡が禁止されていないにもかかわらず、換価することができないという結果に至るような解釈をすることは相当でないように思われる。以上のような検討を踏まえ、本決定は決定要旨2のとおり判断したものと考えられる。
なお、令和元年最高裁判所規則第5号により、民事執行規則150条の7第4項は、裁判所書記官が振替社債等譲渡命令に従った振替社債等の振替の申請を「振替社債等が効力を生じたとき」にしなければならないものと改正されているが、そのことにより、決定要旨2に示された考え方に影響を及ぼすとは考え難いところである。
8
本決定には、決定要旨2につき、鬼丸かおる裁判官の詳細な補足意見が付されている。その内容は、比較的簡単な理由付けにとどまっている決定要旨2の背景にある考え方を敷衍するとともに、本件のような場合に差押債権者が譲渡命令に基づいて簡易に権利を実現できるような方策を検討することが望ましいことも併せて指摘するものであると考えられる。
9
本決定は、振替口座簿に開設された被相続人名義の口座に記載等がされている振替株式等の共同相続により債務者が承継した共有持分について差押命令及び譲渡命令を発することができるかという、実際に生ずることが容易に想定される事態に関するものでありながら、これまでに実務上及び学説上において議論がされてこなかった事柄に関し、最高裁として初めて判断を示したものであり、理論的にのみならず、振替社債等に関する実務全般に少なからず影響を及ぼし得るものとして、重要な意義を有するものと考えられるので、ここに紹介する次第である。
10
なお、本決定による差戻し後の抗告審(大阪高等裁判所平成31年(ラ)第151号同年4月22日決定)において、Xの代表者であるCにはXの正当な代表権がないからXがCの代表者として申し立てた本件申立ては不適法である旨のYによる執行抗告の理由を排斥した上で(この点の判断は原決定と同旨である。)、本決定の決定要旨1及び決定要旨2と同様の判断を示し、本件差押命令が違法であるということはできず、本件申立ても適法であり、本件持分につき譲渡命令を発することができるとして、Yによる原々決定に対する執行抗告を棄却する旨の決定がされている(なお、本件持分の価額等に関する職権判断もされていない。)。