◇SH3211◇インドネシア:外国資本企業の最低投資金額に関する新規則 酒井嘉彦(2020/06/24)

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インドネシア:外国資本企業の最低投資金額に関する新規則

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

1. はじめに

 インドネシア投資調整庁(「BKPM」)は、2020年4月1日、統合された事業許認可サービスの実施に関するガイドラインに関する規則(BKPM規則2020年第1号。「本規則」)を公布し、同規則は同日付で発効した。本規則は、Online Single Submission(OSS)と呼ばれるシステムを通じた事業許認可に関する基準や手続の枠組みを定めている。本稿では、本規則に定められている事項のうち、外国資本企業の最低投資金額に関する新たな規定の概要を紹介する。なお、本稿の執筆にあたり、長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスのインドネシア法弁護士であるイクサン・モンタンの協力を得ている。

 

2. 外国資本企業の最低投資金額

 本規則では、外国資本企業に対して、原則として、インドネシア標準産業分類コード(「KBLIコード」)に基づく事業分野毎かつ事業地毎に、最低投資金額として100億ルピア(土地及び建物を除く)が設定されている。例えば、外国資本企業が2つのKBLIコードに跨がった事業分野の事業を行っている場合、最低投資金額は200億ルピアとなる。また、外国資本企業が2拠点において1つのKBLIコードの下で事業を行っている場合にも最低投資金額は200億ルピアとなる。なお、投資金額の少なくとも25%についてはデット(負債)ではなくエクイティー(資本)の形態で投資することが義務付けられているため、外国資本企業の最低払込資本金額は25億ルピアとなる。

 

 これまでも、BKPMは、最低投資金額として100億ルピア(土地及び建物を除く)を設定しつつ、事業分野が複数のKBLIコードに跨がる場合にはそれぞれ個別に一定の規模の投資額が必要であるという考え方を取っているものと考えられていた。本規則は、これまでのBKPMの解釈・運用を踏まえて、外国資本企業に対する最低投資金額のルールについて明確化するものである。

 

 また、本規則では、上記の原則論に加えて、大規模取引事業(卸売業を含む)、飲食店事業及び建設業に関して、以下の個別ルールが定められている。

 

No. 事業活動 最低投資金額
(1) 大規模取引事業 5桁のKBLIコードの最初の2桁毎に、100億ルピア(土地及び建物を除く)
(2) 飲食店事業 一つの県(Kabupaten)/市(Kota)毎に、100億ルピア(土地及び建物を除く)
(3) 建設業 一つの建設活動毎に、100億ルピア(土地及び建物を除く)

 

 上記(1)について、例えば、外国資本企業が、新車の大規模取引事業(KBLIコード:45101)及び中古車の大規模取引事業(KBLIコード:45102)に従事する場合、KBLIコードの最初の2桁が同じ「45」であるため、投資金額は100億ルピアで足りることとなる。一方、外国資本企業が、新車の大規模取引事業(KBLIコード:45101)及び家電製品の大規模取引事業(KBLIコード:46491)に従事する場合、原則に戻り、最低投資金額は200億ルピアとなる。

 

 上記(2)については、例えば、飲食店事業を行う外国資本企業が、複数店舗を展開しているものの、全ての店舗が1つの県(Kabupaten)/市(Kota)に所在する場合、投資金額は100億ルピアで足りることとなる。

 

 上記(3)に関して、本規則では「建設活動」については定義されていない。仮に「建設活動」が建設プロジェクトを意味する場合、3つの建設プロジェクトを行う建設業者は、300億ルピアの最低投資金額を要求されることになる。今後、「建設活動」の意味内容を含め、BKPMが本規則をどのように解釈・運用するのかに留意する必要がある。

 

3. 主たる事業と支援事業

 本規則では、外国資本企業は、主たる事業の他に支援事業を行うことができるとされている。支援事業とは、①主たる事業とは別のKBLIコードに該当するものであり、②主たる事業を支援することを目的とし、かつ、③利益を生み出さないものとされている。

 

 支援事業に該当する事業についても、適用を受ける事業ライセンス及び操業ライセンスを取得する必要があるものの、支援事業については上記の最低投資金額の適用を受けない。

 

4. まとめ

 上記の外国資本企業に対する最低投資金額のルールは、事業分野毎に最低投資金額を求めるルールを明確化しつつ、似通った事業分野に跨がった事業展開については上記2の通りの個別ルールを提示することで不必要に過大な投資を要求することを緩和することを目指したものということができ、外国人投資家をインドネシアに誘致するためのインドネシア政府の一つの努力であると評価できる。

 

 また、本規則では、上記の最低投資金額のルールの他にも、OSSシステムを通じた許認可サービスに関するより明確な指針を提供している(例えば、駐在員事務所の設置の場面や会社の合併の場面におけるOSSシステムを通じた各種手続など)。このように、インドネシアでは、外国人投資家を呼び込むための事業環境の整備が進んでいるため、今後も引き続きその動向に注目していきたい。

 

 

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