◇SH3299◇ベトナム:投資法の改正① 井上皓子(2020/09/08)

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ベトナム:投資法の改正①

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

 2015年7月1日に施行した現行投資法(以下「2015年投資法」)の改正法は、本年6月に国会で可決され、公布された(以下「改正投資法」)。2020年中は2015年投資法が、2021年1月1日以降は改正投資法が適用される。

 投資法は、ベトナムにおける投資経営活動とベトナムから国外への投資経営活動について規定しており、100%子会社や合弁会社等の設立、経済組織への出資及びその持分・株式の取得、投資契約(事業協力契約(BCC)等)を通じてベトナム市場に進出しようとする企業にとっては、まず問題となる法律である。

 今回の改正では、特に以下の点が実務上重要と考えられる。

(1) IRCの取得についての修正

 外国投資家がベトナムに現地法人を設立しようとする場合、当該外国投資家は、まず投資プロジェクトを策定し、投資登録証(Investment Registration Certificate(IRC))を取得しなければならない。

 改正投資法においては、その例外として、新しい知的財産やテクノロジー・ビジネスモデルを活用しており、急速な成長が期待される革新的スタートアッププロジェクトを実施する中小企業又は革新的スタートアッププロジェクト投資ファンドを設立する場合についてIRCの取得は不要であることを明記し、革新的なスタートアッププロジェクトを支援する方針を打ち出した。ただし、実際には、何が「革新的スタートアッププロジェクトを実施する中小企業」といえるのかという点は必ずしも法令上明確ではなく、具体的な適用の射程はよくわからないところが多い。

 また、原子力発電所や工業団地の建設等一定の大規模又は政策上重要な投資プロジェクトに該当する場合には、投資登録証の申請を行う前に、まず該当する機関(国会、首相又は省級人民委員会)による投資方針承認(2015年投資法においては「投資方針決定」)を得る必要がある。この場合、2015年投資法では投資方針決定を行う機関がいずれであるかにかかわらず、申請の提出先は投資プロジェクトを実施する地の投資登録機関とされていたが、改正投資法では、国会又は首相による承認が必要なものについては、申請先が計画投資省に変更された。なお、投資方針承認を得なければならない場合や、その承認権者については、細かな修正がなされているので、該当する場合はご留意いただきたい。

(2) 条件付き投資分野の修正

 投資法別表4に記載される分野については条件付き投資分野とされ、当該分野について投資経営活動を行う場合は、人事・設備等に関する特別な条件を充足することが必要とされる。2015年投資法においては243分野が指定されていたが、改正投資法においては227分野となり、フランチャイズ、物流サービス、海運貨物運送代理サービス等が条件付き投資分野から削除され、市場参入の障壁が低くなった。他方で、新たに生活用浄水の提供等、新たに条件付き投資分野として指定されたものもある。

 さらに、改正投資法では、外国投資家の参入が認められていない事業分野又は特定の条件付きで外国投資家の参入が認められる事業分野を別途規定することが明確化された。従前、特にサービス業への投資経営を行う場合には、条件付き投資分野の検討に加え、特定の業種に適用される個別の規制について、ベトナムが2007年1月11日にWTOへ加盟した際に段階的な市場開放を公約したいわゆる「WTOコミットメント」や、2019年1月14日に発効したCPTPPの内容を個別に参照する必要があった。改正投資法が予定する、外国投資家への市場アクセス制限の一覧表がどのような形で公表されることになるのかはまだ明確ではないが、法又は政令で一元化されることになると、参照が容易になるだけでなく、従来WTOコミットメントを参照した記載が一般的であったIRC申請等の記述内容にも影響すると思われ、実務上の影響は大きいと思われる。

②につづく

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