◇SH0606◇最一小決 平成26年11月27日 訴訟費用額確定処分異議申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(山浦善樹裁判長)

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1 事案の概要

 (1) 本件は、裁判所書記官が行った訴訟費用の負担の額を定める処分について、異議の申立てがされた事案である。訴訟の当事者が準備書面の直送をするためにした支出について、民事訴訟費用等に関する法律(以下「費用法」ともいう。)2条2号の規定の類推により訴訟費用に含まれるか否かが問題となった。
 (2) 申立人は、相手方に対する立替金請求訴訟の終了後、訴訟費用額の確定等の申立てをしたところ、裁判所書記官は、申立人が準備書面の直送をするためにした支出である郵便料金を訴訟費用に含めないで計算し、「相手方は申立人に対し5195円を支払え」との訴訟費用の負担の額を定める処分をした。申立人は、異議の申立てをしたが、原々審及び原審は、いずれも異議の申立てを却下すべきものとした。そこで、申立人が抗告許可の申立てをしたところ、原審がこれを許可したものである。論旨は、裁判所が書類の送達をするため行う必要な給付(郵便料金等)等について定める費用法2条2号の規定が類推適用されるなどと主張したが、第一小法廷は、決定要旨のとおり、「当事者が準備書面の直送をするためにした支出については、民事訴訟費用等に関する法律2条2号の規定は類推適用されない。」と判示して原審の判断を維持し、本件抗告を棄却した。

 

2 説明

 (1) 現行民訴法は、準備書面の相手方への送付について、当事者は、準備書面について直送をしなければならないとして、直送による方法を原則化している(民訴規則83条1項参照)。平成8年法律第109号による改正前の民訴法(以下「旧民訴法」という。)は、裁判所は準備書面を相手方に送達しなければならないとしていたが(旧民訴法243条1項参照)、準備書面の直送をする取扱いは、従前から広く行われ、このような取扱いは、送達に要する費用の節約を可能とするとともに、当事者が訴訟進行に主体的に関与し得るものとして重要な意義を有すると考えられたことなどから、上記の改正により、原則的な方法として定められたとされる(最高裁判所事務総局民事局『条解民事訴訟規則』183頁)。
 また、直送は、送付すべき書類の写しの交付又はファクシミリ送信によってするものとされ(民訴規則47条1項参照)、このうち、交付とは、直接の手渡し、使送のほか、郵送でもよいとされている(前掲「条解民事訴訟規則」101~102頁)。このように、直送は、多様な方法によることが認められており、直送をするための支出も、定型的、画一的には定まらないものとなっている。
 (2) 当事者が準備書面の直送をするためにした支出が訴訟費用に含まれるか否かについて、旧民訴法下では、これを否定するのが実務における見解であったとされる。しかし、その後の実務上の文献では、費用法2条2号の規定を類推適用することにより、これを肯定する見解が見受けられる。特に、裁判所書記官の事務において参照されている裁判所職員総合研修所『民事実務講義案Ⅱ(四訂再訂版)』62頁(注2)、138頁(注3)(平成25年11月)は、直送は「当事者が裁判所に代わって直接相手方に書面を交付するものである」などとして、費用法2条2号を類推して訴訟費用になると解するとしている。また、民訴法改正時における最高裁判所事務総局『民事訴訟手続の改正関係資料(3)』451~452頁(平成10年2月)も、書面の直送は「裁判所が送付した場合と同様の法律上の効果が発生する」などとして、費用法2条2号の訴訟費用になると解することもできると思われるとしており、民訴法改正後の実務上の文献においては、おおむね上記の類推適用を認める見解が記載されている。(なお、上記の法律上の効果に関して、相手方に送達された準備書面及び相手方に直送され受領書面が提出された準備書面については、いずれも、相手方が在廷していない口頭弁論において当該準備書面に記載した事実を主張することができるものとされている〔民訴法161条3項参照〕。)
 (3) 他方、民事訴訟費用等に関する法律においては、費用法定主義が採用されており、当事者の支出に係るあらゆる範囲の費用に関する現実の支出額を訴訟費用とするのではなく、当事者間において償還請求の対象となる訴訟費用については、その「範囲」及び「額」を列挙して明確に定めているものとされる。
 そして、具体的には、同法2条各号に列挙されているが、このうち、手数料以外の裁判費用について規定する同条2号は、費用の「範囲」につき同法「第11条第1項の費用」を掲げ、「額」につき「その費用の額」と定めている。書類の送達等、裁判所が手続上の行為をするため必要な給付に相当する金額等(郵便料金等)は、当事者が費用として予納義務を負うものとされており(同法11条1項1号、12条)、実務上も、予納された中から現実に支出された金額を前提として、訴訟費用額の計算がされているところである。また、費用法2条4号~10号は、当事者が裁判所以外の者に支払った費用や当事者の労力などを金銭に換算した費用について定めているが、例えば、当事者や代理人等の期日の出頭に係る費用等(同条4号、5号参照)、書類の作成及び提出の費用(同条6号参照)等、費用となるべきものの「範囲」及び「額」が、個別的、定型的、画一的に定められている(なお、費用法は、平成15年法律第128号により改正された際、費用の額の算定方法を簡素化することなどが進められた。例えば、従前は、準備書面等の書類の書記料とその提出の費用が分けられていたが〔上記の改正前の費用法2条6号及び7号参照〕、上記改正により、書類の作成及び提出の費用〔費用法2条6号〕として統合され、算定方法も簡素化されている。)。

 

3 本件の検討

 (1) 以上を前提に検討すると、費用法2条は、当事者等が負担すべき訴訟費用の範囲及びその額を明確化して法定したものと解されるところ、当事者が準備書面の直送をするためにした支出については、文理上、同条2号又はその余の同条各号のいずれにも当たらないことは明らかと考えられる。
 (2) また、費用法2条2号は、裁判所が民事訴訟等における手続上の行為をするために行う必要な支出について、当事者等に予納義務を負わせるとともに、その支出に相当する金額を費用とすることにより、費用の範囲及び額の明確化を図ったものと解される。これに対し、当事者が準備書面の直送をするために行う支出は、裁判所が何らかの手続上の行為を追行することに伴うものではなく、当事者が予納義務を負担するものでもない。当事者が行う支出については、費用法2条4号ないし10号が、費用となるべきものを個別に定型的、画一的に定めているが、直送は、多様な方法によることが可能であって、定型的な支出が想定されるものとはいえない。このように、当事者が準備書面の直送をするために行う支出は、費用の範囲及び額が明確なものとはいえず、当該支出が費用に当たるとすると、相手方当事者にとって訴訟費用額の予測が困難となり、相当とはいえないものと考えられる。
 なお、裁判所が書面を送達する場合、その費用は、当事者による予納と現実の支出により、費用の範囲及び額を簡易迅速に確定することが容易と考えられるが、当事者が準備書面の直送をする場合の支出は、直送の方法もこれに伴う支出も多様であるため、その範囲及び額を簡易迅速に確定することは容易でないものと考えられる。
 また、直送制度自体、送達に要する費用の節約を可能とするとともに、当事者が訴訟進行に主体的に関与し得るものとして、準備書面の送付につき原則的な方法として定められていることからすると、直送が、裁判所の送達に準ずる行為であるとか、裁判所に代わって実施されていると解することも困難と考えられる。
 そうすると、直送が、裁判所による書面の送達等と効果の点で同一の部分があるとしても、当事者が準備書面の直送をするためにした支出について費用法2条2号が類推適用されると解することは困難であるものと考えられる。

 

4 本決定

 以上の検討を踏まえ、本決定は、当事者が準備書面の直送をするためにした支出については、費用法2条2号の規定は類推適用されないと判断したものと考えられる。本決定は、費用法の趣旨に適うものであり、また、簡易迅速な訴訟費用額の算定の実務にも沿うものと考えられる。
 本決定は、判示事項記載の論点について、最高裁が新たに判断をしたものであり、従前、多くの実務上の文献に記載されていた見解と異なる判断を示したものとして、実務上重要な意義を有すると考えられるので、紹介する次第である。

 

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