外務省、東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)署名
アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 中 川 淳 司
1 RCEP交渉の妥結
11月15日、ASEAN加盟10ヵ国と日中韓、オーストラリア、ニュージーランドの15ヵ国の首脳はRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)に署名した。新型コロナウィルス感染症のため、署名式はテレビ会議方式で開催された。菅首相立合いの下、梶山経済産業大臣が他の14ヵ国の代表とともに協定に署名、別途署名を済ませていた茂木外務大臣との連署となった。2012年11月の交渉開始以来8年間、交渉会合31回、閣僚会合を加えると50回に及ぶマラソン交渉を積み重ねた広域FTA(自由貿易協定)がようやくまとまった。惜しまれるのは、交渉の終盤になって、貿易自由化による貿易赤字拡大への懸念などを理由に、インドが交渉から離脱したことである。この結果、RCEPの経済圏は人口で世界の46%から29%、GDPで世界の33%から3割と縮小した。それでも、協定が発効すれば人口、GDPともにEUやCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を凌駕する世界最大の自由貿易圏が誕生することになる。
2 RCEPの経済的意義
日本は当初からRCEPの交渉を熱心に推進した。それは何よりもRCEPがASEAN、そして中国、インドという巨大市場をカバーするFTAであったからだ。RCEPは物の貿易の自由化をもたらすだけではない。サービス貿易や投資の自由化もカバーしている。知的財産、電子商取引、競争などについても詳細なルールを定めている(表を参照)。
表 RCEPの章立て
1章 | 冒頭の規定及び一般的定義 | 11章 | 知的財産 |
2章 | 物品の貿易 | 12章 | 電子商取引 |
3章 | 原産地規則 | 13章 | 競争 |
4章 | 税関手続及び貿易円滑化 | 14章 | 中小企業 |
5章 | 衛生植物検疫措置 | 15章 | 経済協力及び技術協力 |
6章 | 任意規格、強制規格及び 適合性評価手続 |
16章 | 政府調達 |
7章 | 貿易上の救済 | 17章 | 一般規定及び例外 |
8章 | サービスの貿易 | 18章 | 制度に関する規定 |
9章 | 自然人の一時的な移動 | 19章 | 紛争解決 |
10章 | 投資 | 20章 | 最終規定 |
中国やASEAN諸国でサプライチェーン(供給網)を展開する日本の製造業・サービス業にとって、RCEPによりサプライチェーンの全域で良好なビジネス環境が保障されることの便益は計り知れない。その意味で、インドの離脱は日本にとって大きな損失と受け止められている。協定発効後も、RCEPはインドの加入のために開かれているとする閣僚宣言が、署名に先立つ11月11日に採択された。日本がこの宣言の採択を強く働きかけたのは、インドが参加することでRCEPの経済的効果が増大すること、具体的に言えば、インドのビジネス環境が大きく改善することを期待しているためである。
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(なかがわ・じゅんじ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所客員弁護士。中央学院大学現代教養学部教授、同社会システム研究所長。東京大学名誉教授。1979年東京大学法学部卒業。1987年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。1988年東京大学法学博士。東京工業大学工学部助教授、東京大学社会科学研究所助教授、同教授を経て2019年より現職。この間、ジョージタウン大学ローセンター、ハーバードロースクール、エルコレヒオデメヒコで客員研究員。タフツ大学フレッチャースクール、ベルリン自由大学他で客員教授。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会)。
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