◇SH0008◇インド:インド式新会社法施行 宿利有紀子(2014/06/30)

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インド:インド式新会社法施行

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 宿 利 有紀子

 

1.会社法の改正・施行の概要

 インドなどアジアの法務に関わっていると、一旦施行された法令等が事後的に修正・改正されることにあまり驚かなくなる。2014年4月1日に本格的に始まったインドの新会社法施行も、ご多分に漏れず、とりあえず走ってみた上で、各方面から寄せられる意見を聞きつつ、ああしまったと思えば修正するし、改善が必要だと思えば改正する、という(良く言えば)柔軟なスタイルで、順調な(?)滑り出しを見せている。

 少しおさらいをすると、インドでは、新会社法(Companies Act, 2013)が2013年8月30日付で公示され、そのうち98の条項が同年9月12日付で、残りの多くの条項が2014年4月1日付で施行された。直前の3月27日から31日にかけてどっさり大量の会社法施行規則が出されたのだが、ギリギリに滑り込みで当局のウェブサイト上公表されたものについて、いわゆる官報公告手続をすっ飛ばしたためこれを無効とする判決が出されたときは、思わず笑ってしまった関係者も多いのではないかと思う。

 改正の内容自体は、コーポレート・ガバナンスの強化が中心であるが、クラスアクション制度の創設やCSR(企業の社会的責任)、女性取締役に関する規定など、政策的な観点から目を引く改正を含む辺りに、インドらしさを感じさせる内容となっている。

 

2.施行から調整フェーズへ

 新会社法によるコーポレート・ガバナンスの強化は多岐にわたっており、独立取締役や一定の役員(CEO等、CFO及び会社秘書役)等の選任、監査委員会等の機関の設置や、関連当事者間取引の規制強化といった目立った改正以外にも、株主総会や増資といった会社の重要行為に影響を与えるものを含め、多くの改正が行われている。インド会社法の特徴の一つとして、会社の種類(主として公開会社、非公開会社、及び上場会社)及びその規模により、適用されるコーポレート・ガバナンス規定の範囲が異なる上、例えば独立取締役の選任を要する会社と、内部監査役の選任を要する会社はその種類や規模が異なるといった側面がある。そのため、自社に適用される規定を整理するのも一苦労であるし、さらに、あるべき経過措置が見当たらないなあと思いつつ、分かりにくい条項を読み解いて施行に間に合わせようと対応するのは、かなり骨の折れる作業である。

 このような中で、バタバタと施行日を迎えたわけであるが、同日以降も、順調なペースで当局からさらに色々なお達しが発出されている。例えば、電磁的方法による投票システム導入や監査役会等の設置に経過措置規定を追加したり、会社秘書役を設置しなければならない会社の範囲を広げて改正前と同水準に戻したり、また、6月24日に出された各方面のご意見伺いのためのお達し案では、今回の改正ですっかり厳格化されたと思われていた非公開会社のガバナンスについて(例えば株主総会手続についての定款自治の制限や取締役会の権限の制限など)、これを元に戻す内容の提案がなされている。各利益団体のロビイングや関係各方面の意見を反映した動きであり、熱いデモクラシーを誇るインドらしいこの調整フェーズは、しばらく続くものと思われる。

 インド新会社法は、上記以外にも、M&Aに影響を与える改正や(簡易組織再編や少数株主の株式買取等に関する規定)、いわゆる会社再生手続の改正などの制度的改正も含んでいるのだが、クラスアクション制度を含め、これらはまだ本格施行されていない。これらが施行され、実務が安定してくるまでには、おそらくさらに数年はかかると思われるが、今後もインド式施行の動向を見守っていきたい。

 

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