eスポーツを巡るリーガル・トピック
第2回 eスポーツと著作権(1)――ゲームの著作権性とプレイ動画
TMI総合法律事務所
弁護士 長 島 匡 克
eスポーツにおいてゲームは欠かせない要素であり、ゲーム会社がゲームに係る知的財産権を保有するため、その制約に服することになる。ゲームに関する知的財産権としては、特許権や商標権、不正競争防止法などが考えられるが、本連載ではeスポーツに関連するゲームに係る知的財産権として最も典型的な著作権に関する論点について概括したい。その中でも、今回は、ゲームの著作物性とプレイ動画を巡る問題を検討したい。
1 ゲームの著作物性
著作権法の保護を受けるためには、著作物(著作権法2条1項1号。以下「法」という。)である必要がある。ゲームは、法10条各号に例示されている著作物に含まれていないが、裁判例によって複数の側面から著作物であることは裏付けられている。すなわち、ゲームのプログラムはプログラムの著作物[1]であり、ゲームの影像(アウトプット)は映画の著作物として保護される[2]ものと考えられている。また、ゲームに登場するキャラクターデザイン[3] [4]やゲームのストーリー[5]などが保護の対象となると判断されている。
著作権法上の著作物となれば、当該著作物の著作者は、著作者人格権(同一性保持権等)を、著作権者は著作権(複製権、上映権、公衆送信(送信可能化)権、翻案権等)を有することになる。したがって、ゲームをゲーム会社の許諾なく、インストールしたり、公に上映したり、インターネット上で配信したりする行為は、原則として、著作権侵害である。
著作権侵害が認められる場合には、民事上の差止め(法112条1項)及び損害賠償(民法709条)請求が認められることに加え、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金という刑事罰(法119条1項)の対象でもある。
例えば、eスポーツ大会を開催する際に、競技の対象となるゲームタイトルをPC等にインストールをし、プレイ影像を観客に見せるために上映し、かつ配信プラットフォームを通じて配信したとする。この場合は、複製権(法21条)、上映権(同法22条の2)及び公衆送信(自動公衆送信を含む。)権(同法23条1項)の侵害となりうるため、eスポーツ大会の主催者は、原則として当該ゲームの著作権者であるゲーム会社からのライセンスを得る必要がある[6]。
もっとも、当該著作物の利用が、著作権法の例外規定にあたる場合には、著作権者の承諾なくとも利用できる。私的使用目的のための複製(法30条1項)や、引用(同法32条)、営利を目的としない上演等(同法38条1項)、時事の事件の報道のための利用(同法41条)などがその例である。
以下では、eスポーツに関連するゲームの利用について、著作権法上の問題が生ずると思われる点について、検討を進める。
2 プレイ動画の配信とゲーム会社の著作権
⑴ プレイ動画の配信は原則として著作権の侵害に
eスポーツのタイトルを含め、ゲームのプレイ動画がYouTubeやTwitch等の動画配信プラットフォームにおいて配信される例が多く認められる。一般的には、プレイ動画の配信においては、ゲームをプレイしている動画を録画し、適宜編集の上、インターネットの配信プラットフォームにアップロードの上配信することになるため、ゲーム会社に無断でプレイ動画を配信することは、複製権(法21条)、公衆送信(送信可能化を含む。)権(同法23条1項)及び(配信者の編集等に創作性が認められる場合には)翻案権(同法27条)等の侵害となり得る。
⑵ ゲーム会社による明示又は黙示の許諾
この点、プレイ動画の配信は、ゲームのプロモーションやコミュニティの醸成にも繋がるという側面がある。そのため、ゲーム会社によっては、一定の範囲で包括的な許諾がなされている場合がある。例えば、任天堂は、ガイドラインにおいて個人のユーザーによるプレイ動画投稿、さらにはYouTubeやTwitch等の任天堂が指定するシステムを用いた収益化も認めている[7]。他にも、カプコンも同趣旨のガイドラインを公開しており[8]、Fortnite[9]等の海外コンテンツでも同様の対応となっているゲームタイトルがある。また、ゲーム会社と配信主体が包括契約を締結するケースも増えてきている。
また、プレイステーション4及び5にはプレイ動画をシェアするための機能がついており、そこでの利用可能なタイトルについては、その機能の範囲において黙示の許諾があると考えることができるであろう。
⑶ 引用(著作権法32条1項)の適用可能性
しかし、明示又は黙示の許諾があると考えられないプレイ動画の配信は、原則として当該ゲームソフトに係る著作権の侵害となり得る。もっとも、プレイ動画には、プレイ動画を配信する者(以下「配信者」という。)の容姿やプレイの実況、解説、感想、コメント等も同時に配信される場合も多い。このような配信が、著作権法上の引用に該当すると整理できる、という意見もあるところである。
引用に関する法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定している。
条文上の要件としては、(i)引用される側の著作物が公表されていること、(ii)公正な慣行に合致すること、(iii)報道、批評、研究、その他の引用の目的上正当な範囲で行われること、と規定されている。しかしながら、裁判例は、写真の改変に係るパロディ・モンタージュ事件最高裁判決[10]が提示する、①主従関係、②明瞭区分性の2要件を中心に判断するものや、①、②に加えて、③引用の目的・必要性、④出所の明示といった考慮要素を総合的に判断するものなど混沌としており、明確な判断基準は確立しているとは言い難い。
もっとも、「引用して利用できる」との規定から、利用の形態に限定はなく、あらゆる形態での著作物の利用が可能である点、引用する側に著作物性は不要である点及び表現の自由との調整の関係もあり、「引用の目的」は、報道、批評、研究はあくまでも例示に過ぎず、これら及びこれらに類する目的に限られるものではない点などは広く認められているところである。
実際に配信されているプレイ動画の態様は、ゲームプレイの様子を淡々と流すもの、自らの肖像やアバターを表示するもの、ゲームプレイの様子やゲームのルールを解説するもの、全くゲームプレイとは無関係の話をするもの、単に黙々とゲームプレイをするのみのものなど、個々の配信者のスタイルに応じて実に様々であり、一概に引用の該当性を検討できるものではない。もっとも、プレイ動画はその性質上、ゲーム影像が主たる内容になりやすく、主従関係でみるとゲーム影像が主となる場合が多いように思われる。当然、配信者の影像とプレイ動画の画面比率、配信におけるゲームのプレイ動画の割合、配信者のコメント等を総合的に考慮した上で、引用として利用が認められる場合はありうるであろうが、そのようなプレイ動画は限定的ではないかと思われる。
⑷ 小括
ゲーム影像も映画の著作物であると整理されるが、インターネット上での海賊版の映画が劇場での観賞に代替となるためビジネスに深刻な影響を及ぼすのに対し、ゲームのプレイ動画の視聴経験は、ゲームの購入やゲーム内課金に関するビジネスの代替となるものではなく、むしろゲームの購入・プレイ意欲を刺激するものともいえる。このような特徴が、一定の範囲でゲーム会社がゲームのプレイ動画の配信を許容するという状況を生み出しているように思われる。多くの者がプレイ動画を配信し、視聴し、配信プラットフォームからの広告料や視聴者からの投げ銭等が支払われる一定の経済圏が成立しているが、著作権侵害が刑事罰を伴う行為であることを考えると、プレイ動画の配信が適法になされることが肝要である。プレイ動画についてガイドラインを出すゲーム会社も徐々に増えてきているが、配信を行う者は、ゲーム会社のガイドライン等を確認し、それを遵守して行うべきであることは言うまでもない。
なお、(eスポーツの競技となるゲームタイトルでは一般的とはいえないものの)ロールプレイングゲーム(RPG)のプレイ動画等、いわゆる「ネタばれ」を含むプレイ動画は問題とされやすいので留意が必要である。
第3回につづく
[1] 東京地判昭和57・12・6無体集14巻3号796頁(スペース・インベーダー・パートⅡ事件)
[2] 最一判平成14・4・25民集56巻4号808頁(中古ゲームソフト事件)。なお、東京高判平成11・3・18判時1684号112頁(三國志Ⅲ能力付加事件)では、当該ゲームが影像の流れを楽しむものではないこと、影像が連続的なリアルな動きを持っているものではなく、静止画像が圧倒的に多いことを挙げ、映画ないしこれに類似する著作物に該当しないと判断した。eスポーツの対象となるゲームタイトルは、ゲーム影像が連続的にリアルに動くものであるため、映画ないしこれに類似する著作物に該当するという点で異論はないと思われる。
[3] ゲームに関する判決ではないが、キャラクターのイラストの著作物性が肯定されている例として大阪高判平成23・3・31判時2167号81頁(ひこにゃん事件)。なお、最一判平成9・7・17民集51巻6号2714頁(ポパイ・ネクタイ事件)は、漫画の具体的表現から離れたいわゆるキャラクター(一定の名称、容貌、性格、役割等の特徴を総合した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念)自体は、著作権法で保護される著作物ではないと判断されたが、ゲームソフトにおけるキャラクターは具体的な表現であるため著作権法で保護される著作物であると考えられる。
[4] 但し、キャラクターのコスチュームに関しては、裁判所の判断は出されていないが、著作物性が認められないものも相応にあると考えられる。いわゆるマリカー訴訟(知財高裁中間判決令和元・5・30裁判所HP)ではマリオ等のキャラクターのコスチュームに関する著作権上の論点は争点化されていない。
[5] 最三判平成13・2・13民集55巻1号87頁(ときめきメモリアル事件)
[6] たとえば、カプコンは、イベントの開催に関しては営利・非営利問わず、個人開催のイベントであっても個別で許諾するという対応を原則としている(http://www.capcom.co.jp/support/faq/others_website_037212.html)。
[7] 任天堂株式会社「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」2018年11月29日(https://www.nintendo.co.jp/networkservice_guideline/ja/index.html)
[8] 株式会社カプコン「カプコン動画ガイドライン(個人向け)」最終更新日 2021年1月6日(https://www.capcom.co.jp/site/privacy_06.html)
[9] Epic Games, Inc.「ファンコンテンツについての方針」(https://www.epicgames.com/site/ja/fan-art-policy)
[10] 最三判昭和55・3・28民集34巻3号244頁(パロディ・モンタージュ事件)
(ながしま・まさかつ)
2010年早稲田大学法務研究科修了。2011年に弁護士登録。2012年からTMI総合法律事務所勤務。スポーツ・エンタテインメントを中心に幅広く業務を行う。2018年にUCLA School of Law (LL.M.)を終了。その後、米国・ロサンゼルス所在の日系企業及びスウェーデン・ストックホルム所在の法律事務所での研修を経て帰国。2020年カリフォルニア州弁護士登録。米国Esports Bar Association(EBA)の年次総会でパネリストとして登壇するなど、日米のeスポーツに関する知見を有する。eスポーツに関する執筆は以下のとおり(いずれも英語)。
- “The growth of esports in Japan‐are domestic regulations holding back the industry?” LawInSports, June 27, 2019. (https://www.lawinsport.com/topics/item/the-growth-of-esports-in-japan-are-domestic-regulations-holding-back-the-industry)
- “Participation in Japanese E-Sports”, THE SPORTS LAW REVIEW – 6th Edition, November 2020. (https://thelawreviews.co.uk/edition/1001552/the-sports-law-review-edition-6)
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