インドネシア:不動産の購入は健康保険への加入の後で(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
3 国土庁長官通達による措置の詳細
措置の詳細は、その後に発出された通達No. 5/SE-400.HK.02/II/2022により以下のとおり明らかになった。
土地の権利又は区分所有権の買主となるインドネシア人、インドネシアで6か月以上就労する外国人、又は法人は、その移転登記手続に際して、健康保険に加入していること(法人にあっては、代表者が健康保険に加入していること)の証明が必要となる。証明の方法は、先述したBPJS健康保険証の写しによるほか、次のいずれかを用いることもできる。
(1) BPJS健康保険アプリの加入状況を表示する画面のスクリーンショット
(2) BPJSクセハタンからの加入状況を確認するSMS画面のスクリーンショット
(3) BPJSクセハタンのウェブサイトの加入状況を表示する画面のスクリーンショット
(4) BPJS健康保険料支払にかかるヴァーチャルアカウントの記録(自営業者のみ利用可)
健康保険に未加入の者、又は加入後に失効した者は、健康保険に加入し、又は有効化するまでは、原則として、土地の権利又は区分所有権の売買に基づく移転登記手続を進めることができない。
かかる通達に基づく措置は、2022年3月1日から有効となっている。
4 企業活動への影響
通達は、行政内部における指示を定めたものであるので、法令と異なり、私人に対して直接拘束力を持つものではないものの、通達の名宛人である行政庁が当該通達の指示に従って運用を行うことで、結果として国民生活や企業活動にも影響を及ぼしうる。今回の国土庁長官通達による措置は、個人だけでなく、法人(インドネシアで設立された外資企業も含まれる。)が買主となる場合も対象とされ、土地の利用目的による区別等について特段言及がないことから、例えば事業用目的での売買であっても法人代表者につき健康保険加入の証明が必要となると見られる。
さらに、大統領指令2022年第11号は、上述のとおり30の省庁を対象としているため、今後、他の省庁が所管する行政手続に関しても各省庁から同様の通達が発出される等の対応がとられる可能性がある。日系企業の多くはBPJS健康保険への加入義務化に対応済みと思われるが、今後はその加入状況が健康保険と直接関係しない手続に影響を与えうることにも留意されたい。
以 上
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(まえかわ・よういち)
1998年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院修了。2007年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2013年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。2013年~2016年長島・大野・常松法律事務所ジャカルタ・デスク(Soemadipradja & Taher内)勤務。2019年10月~長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。
現在はシンガポールを拠点とし、インドネシア及び周辺国における日本企業による事業進出および資本投資その他の企業活動に関する法務サポートを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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