◇SH3041◇インドネシア:企業結合届出に関する新規則(2) 福井信雄(2020/03/04)

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インドネシア:企業結合届出に関する新規則(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 福 井 信 雄

 

3.企業結合届出の遅滞に対する制裁の強化

 インドネシアの独占禁止法においては、企業結合届出が取引完了日から30営業日以内に提出されなかった場合、KPPUはかかる届出遅滞に対して10億ルピアから250億ルピアの制裁金を課すことができる旨規定されている。実務上、30営業日で届出に必要な情報を入手し届出書を完成させ提出まで漕ぎ着けるのは容易ではなく、クロージング前から余裕を持って準備をしておくことが望ましい。ただ、これまでの実務では、不完全なものであっても30営業日以内に届出書という体裁を整えて暫定的に提出し、不足する情報や書類は後日追完するという対応が採られることも珍しくなく、KPPUもそれに対しては比較的寛容な姿勢を見せ、期限内に届出がなされればそれが不完全なものであっても届出遅滞という扱いをすることはなかった。ところがKPPU新規則においては、30営業日以内に「完全な」届出を行うことが明文で義務づけられ、不完全な届出書しか提出されなかった場合には届出遅滞という扱いにされることが明確になった。これは従来の実務を変更してより厳格に期限の遵守を求めるKPPUの意図が表れた規定と言え、これによって企業結合届出の要否の検討及び必要と判断した場合の届出の準備作業を前倒しで進める必要性が高まったと認識しておくべきである。

 さらに、かつての実務では、KPPUが届出遅滞事案を把握した場合、関係当事者に対して届出を行うことを求め、正式に届出が受理された時点で遅滞期間を計算し制裁金を課すかどうかの判断を行っていた。つまりどんなに遅滞が発生していても、届出がなされるまでは遅滞期間が確定せずに制裁金を課すことができないという運用がとられていた。この点、KPPU新規則においては、KPPUが当該事案についての届出遅滞に係る調査を開始した時点で制裁金を課すことができることが明記された。つまり、届出の完了を待つことなく、より早い段階でKPPUが制裁金を課すことを可能にするもので、企業結合届出のエンフォースメントの強化の一環と評価できる。

 

4.今後の展望

 インドネシアでは、1999年の独占禁止法の施行以降、KPPUを通したエンフォースメントが積極的に実施されてきた歴史があり、他のアジア各国の競争当局と比較しても精力的に活動している機関と評価されている。今回のKPPU新規則は、改正法案の審議が遅々として進まない国会の状況を踏まえ、KPPU単独で変更可能な実務の運用部分を中心に改正が行われたものと評価できる。(上記2.の企業結合届出の対象取引の拡大まで可能なのかについては疑義が残ることは上述の通りである。)KPPU新規則に基づく実際の運用は開始されたばかりであり、これらがどの程度厳格に運用されるかによっても実務に与える影響は変動しうる。(インドネシアでは、明文の規定と実際の運用に大きな乖離があることは様々な法分野で散見されるところである。)ただ、企業結合届出に関するエンフォースメントを強める意図をKPPUが有していることに疑いの余地はなく、インドネシアが対象地域に含まれるM&A取引においては、今後企業結合届出対応に一層の留意をしつつ手続きを進める必要がある。

以上

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