SH5062 ベトナム:労働契約の一方的解除および解雇処分が違法とされた裁判例の紹介と対策 澤山啓伍(2024/08/23)

そのほか労働法

ベトナム:労働契約の一方的解除および解雇処分が違法とされた
裁判例の紹介と対策

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 ベトナムにおいて、労働者は厚く保護されており、使用者が違法な理由で労働者を解雇した場合、①労働者が労働を再開することを受け入れ、②労働者が労働できなかった日数分の賃金および社会保険料等を支払い、③労働契約に基づき損害を賠償する等しなければならない。

 本稿では、使用者が違法に労働者を普通解雇および懲戒解雇したと判決された事例を紹介し、これに基づき、労働者を解雇する際に使用者が留意すべき点を分析する。なお、この監督審判決は、先例拘束力を持つ判例として選定される候補に挙げられている。

 

1 事案の概要

⑴ 労働契約の概要

 原告である労働者Xは、2019年2月15日に被告であるY社と無期限労働契約を締結した。契約の内容は、同年1月25日から2月28日の試用期間を経て、同年3月1日に正式な労働を開始するというもので、職位は副総社長であり、労働時間は仕事に応じて任意(linh động)とされた。しかし、Xは、同年3月1日から31日までの間、理由なく17日しか出勤しなかった。

 

⑵ 決定第31号および決定第36号の発行

 同年4月8日、Yは、「業務および管理職としての要求水準に応えない」ことを理由にXを普通解雇するため、決定第31/QĐ-SGBM号(以下「決定第31号」という。)を発行し、Xに通知した。また、同年4月16日に、Yは、Xとの労働契約を同年6月1日に終了し、理由を「管理職の組織構造の変更」に変更する、決定第36/QĐ-SGBM号(以下「決定第36号」という。)を行った。なお、Yは、決定第36号をXに通知したが返事がなかったと主張したのに対し、Xは通知を受領していないと主張した。

 

⑶ 決定第52A号の発行

 その後、Yは、同年5月31日付決定第52A/QĐ-SGBM号(以下「決定第52A号」という。)を発行し、Xに対して「正当な理由なく1ヵ月に合計5日仕事を放棄した」ことを理由に懲戒解雇を行った。なお、Xは、労働規律処分の会議に招待されたが、これを欠席した。また、Xは、決定第52A号を受領していないと主張した。

 

⑷ 当事者の主張

 Xは、Yを違法解雇により訴え、契約終了に関する決定第31号の取消および賃金や損害賠償等の支払いを求めた。一方で、Yは、解雇が違法ではないと主張し、Xの請求を争う姿勢をした。

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(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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