◇SH1497◇タイ:クラウドファンディング法制の現状及び改正に向けた近時の動向 箕輪俊介(2017/11/15)

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タイ:クラウドファンディング法制の現状及び改正に向けた近時の動向

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 スタートアップ事業のためのビジネスプラットフォームの改善を重要な政策の一つに掲げているタイでは、資金調達の方法についても幅広い選択肢をスタートアップに対して提供するための方策の検討が政府機関レベルで継続してなされている。

 スタートアップ事業向けの資金調達の方法の一つとして注目されているものがクラウドファンディングである。このクラウドファンディング(インターネット等を通じて多数の投資家から小口の出資を集める資金調達の手法)のうち、投資型のクラウドファンディングについては、その対価として得られるものが証券であるため、投資家保護の観点から、タイにおいても証券取引委員会にて規則(Notification of the Capital Market Supervisory Board No. TorJor. 7/2558 Re: Regulations on Offer for Sale of Securities through Electronic System or Network)(その後の変更を含む。以下、「CF規則」という。)が設けられ、一定の仕組み作りがなされている。本稿では、現行法上の規制の概要を中心に、現在、証券取引委員会がCF規則の改正を検討しているため、改正の内容について簡単に紹介したい。

 

従前の規制

 CF規則が規制しているものは、上述のとおり、投資型(資金の提供者が、その資金提供の対価として資金提供先より株式等の証券の発行を受け、証券を通じた収益(配当等)や証券の売却によるキャピタルゲインによりリターンを実現する類型、以下、「投資型CF」という。)のクラウドファンディングである。クラウドファンディングは、その分類方法にもよるが、例えばこれを寄付型、商品購入型、融資型、投資型に分けるとすると、現状、上記の意味における投資型の性質を有するもののみが規制の対象となっており、それ以外の類型のクラウドファンディングについては体系的にこれらを規制する法令又は規則はタイ法上ない。

 各国の投資型CFに関する規制においても、投資家保護の観点からプラットフォーム提供者の資格や投資家から募集する額の上限額等に制限が設けられているが、タイのCF規則では、大要以下のような規制が定められている。

  1. ⑴ 資金募集者
  2.  •  資金募集者は、タイ法に準拠して設立された法人でなければならない。
  3.  •  資金募集者は、投資型CFを利用することにより得た資金を原資として行う明確な事業計画・プロジェクトの計画を有する必要がある。
  4.  •  資金募集者は、資金募集時までに発行株式を上場していたことはなく、公募も私募も行ったことがない。
  5.  •  資金募集者が投資型CFを利用するに際して利用できるプラットフォーム提供者(証券取引委員会が公開しているCF規則の英語訳では、“crowdfunding Portal”と訳されているため、以下、「CFポータル」という。)は一者のみであり、他のCFポータルを介して投資型CFを行うことはできない。
  6.  
  7. ⑵ 投資家
  8.  •  投資家は、①小口投資家と、②機関投資家、適格投資家、ベンチャーキャピタル及びプライベートエクイティーの二つに大きく分けられる。
  9.  •  小口投資家の場合、1人あたりの資金提供額は1資金募集者あたり5万バーツ(約15万円)までという上限が課されている。また、全小口投資家からの資金提供の合計額は、原則として、12か月間で2,000万バーツ(約7,000万円)まで、また1資金募集者当たり合計で4,000万バーツ(約1億4,000万円)までという上限が資金募集者に課されている。
  10.  •  機関投資家、適格投資家、ベンチャーキャピタル及びプライベートエクイティーについては上記のような投資額の上限は設定されていない。
  11.  
  12. ⑶ CFポータル
  13.  •  CFポータルは、タイ法に準拠して設立された法人でなければならない。
  14.  •  CFポータルは、原則としてCFポータル事業以外の他の事業を行ってはならず、CFポータル事業専業でなければならない。
  15.  •  CFポータルは、CF投資が行えるように必要なシステムを管理し、運営できる能力を有する必要がある。

 

CF規則の改正

 現行のCF規則の概要は上記のとおりである。CF規則は、制定された2015年5月から現在に至るまで何度かその内容が改正されているものの、これまでの改正が近時のめざましい技術革新に完全に対応しているとはいい難い。そのため、証券取引委員会は現在この規則の大幅な改正を検討している。まだ改正案そのものは公表されていないものの、改正の目的及び方針については以下のとおりである。

  1.  •  クラウドファンディングにおける株式発行や引受の場面でブロックチェーン技術を利用したり、スマートコントラクト(イベント発生から決済までの流れがシステム化されることにより、合意内容がイベント発生と共に自動的に実行・執行される契約のこと。事前に執行の条件とかかる条件を充たした場合の動作や決済手順について合意し、定義しておくことで、条件に合致した事由が発生すると一連の処理が自動的になされる仕組みである)を利用したりすることを可能にする。
  2.  •  CFポータルを通じた株式のセカンダリーマーケットを創出し、株式の流動化を促進する。
  3.  •  資金募集者が複数のCFポータルを通じて投資型CFを行えることを可能にする。

 

今後の課題

 上記のようなCF規則の改正は、より多くのクラウドファンディングの利用を呼びこむために有用であり、政府、特に証券取引委員会の積極的な動きが期待されるところである。

 また、かかるCF規則の改正に加えて、スタートアップ企業により豊富な資金調達手段を与えるためにも民商法典の改正について着手することが望まれる。例えば、クラウドファンディングを利用することにより、資金募集者の株主の人数が増え、利害関係の異なる株主が存在することになり、会社の成長・規模の拡大と共に、その株主間の関係も従前のものでは上手くいかず、関係性を調整する必要が生じる。そのような場合に取り得る有用な手段の一つとして、優先株式を発行しておき、その内容を変更できるようにしておくことや転換社債等を発行しておくことが考えられるが、現在のタイ法上は一度発行した優先株式の内容を変更したり、社債に転換したりといった行為ができない。但し、優先株式の内容の変更や転換社債の発行についてその導入について閣議決定がなされ現在前向きに検討がなされているため、この動向についても注視していくべきと考える。

 なお、CF規則上、外資規制等において例外は定められていない。したがって、かかる投資型CFを通じて資金調達をする場合において、当該事業が外資規制の対象となる場合は投資家の設立準拠法又は株主等の構成については注意を払う必要がある。

 

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