◇SH3608◇タイ:IPOの復活に伴うタイにおける卸売業と外資規制の現状(1) 箕輪俊介(2021/05/10)

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タイ:IPOの復活に伴うタイにおける卸売業と外資規制の現状(1)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 2021年に入ってからフィリピンやインドネシアといった東南アジア諸国で外資規制の緩和がなされたり、検討が本格化したりしている。いずれの国もより多くの外国資本を誘致するべく、他国と比べてより競争力を持った投資環境の整備を進めているが、タイでもタイ投資委員会(Board of Investment(BOI))を中心に外国資本の誘致に向けての環境整備を進めている。その一環として、BOIは、2021年1月13日に、2014年に一度廃止された国際調達事務所(International Procurement Office(IPO))という卸売業に関連する投資恩典を復活させることを公表した。このIPOという制度を、タイにおける卸売業に課される外資規制の現状と共に本稿にて解説したい。

 

1. 卸売業と外資規制

 タイの場合、卸売業[1]は外資規制の対象とされており、外国人事業法上の「外国人」に該当する事業者は、資本金要件を充たすか(資本金を一定額以上にして外国人事業法の規制を受けない小売業・卸売業として作り込むか)[2]、商務省事業開発局長から許可を受けない限り、卸売業に従事できない。

 

 商務省事業開発局長から許可を受ける方法はいくつかあり、商務省事業開発局へ直接、外国人事業法上のライセンス(Foreign Business License(FBL))の取得を申請する方法が代表的なものである。他にも、BOIの投資奨励制度を利用する方法等がある。BOIの投資恩典を取得した場合、非税制面の恩典として、外国人事業法上の規制対象業種について外資100%での事業運営が認められる。BOIを経由して取得される外国人事業法の許可はForeign Business Certificate(FBC)と呼ばれる。この点、従前はFBCを取得するにあたり、BOIから投資恩典を取得した後に別途商務省事業開発局にてFBCの取得に関する申請を行わなければならなかったが、行政窓口のワンストップ化が図られ、2021年よりBOIにてBOI関連の手続と共にFBCの申請及び取得を一括してオンラインベースで行うことが可能となった。

 

2. IPOの復活とその内容

 IPOは、以前は投資恩典の一類型を構成していたが、2014年に廃止され、同時に国際貿易センター(International Trade Center(ITC))という恩典に切り替えられた。ITCは更に、2018年に国際事業統括本部(International Headquarter(IHQ))という恩典と統合され、国際ビジネスセンター(International Business Center(IBC))にその形を変えた。その上で、今般、2021年1月からIBCを存続させつつ、IPOが復活することとなった。

 

 IPOの取得要件は2014年以前と異なるものではなく、以下のとおりである。

  1. (a)  製造業に用いる原材料、部品、素材のような半製品等の調達に関する事業であること。
  2. (b)  倉庫を所有又は賃貸していること。当該倉庫にて、ITを用いた倉庫管理システムによって在庫を管理していること。
  3. (c)  品質検査や梱包等にて適切な製品管理を行い、調達を行うこと。
  4. (d)  タイ国内を含む複数のサプライヤーから調達を行うこと。
  5. (e)  タイ国内の市場で卸売業に従事し、及び/又は、海外への輸出を行うこと[4]
  6. (f)   1,000万バーツ(現在のレートにておよそ3,500万円)以上の払込済みの登録資本金を有すること。

 

(2)につづく



[1] タイでは、B to Bの事業か、B to Cの事業かに拘わらず、最終消費者に対して販売する事業は小売業として扱われ、最終消費者に直接販売するのではなく、代理店等、中間業者に対して販売する事業は卸売業として扱われる。

[2] 外国人事業法上、卸売業については1店舗あたり1億バーツ(現在のレートにておよそ3億5,000万円)以上の資本金を有する場合には規制の対象外となり、外国人事業許可を取得することなく外国人がこれに従事することができるとされている。

[3] ROHは地域事業本部(Regional Operational Headquarters)の略称であり、IHQの前身である。

[4] 物流が商流と異なり、商流上はタイ国外の製造業者→IPO業者(タイ国内)→タイ国外の顧客(卸売業者)であるが、物流上は、製品がタイ国内に持ち込まれることなく、タイ国外の製造・販売業者から直接タイ国外の顧客に搬送されるような取引(いわゆるout to out取引)をIPO業者が取りまとめることは認められていない。

 


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(みのわ・しゅんすけ)

2005年東京大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科(法科大学院・司法試験合格により)退学。2014 年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、2014 年Ashurst LLP(ロンドン)勤務を経て、2014 年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。

バンコク赴任前は、中国を中心としたアジア諸国への日本企業の進出支援、並びに、金融法務、銀行法務及び不動産取引を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。

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