◇SH3677◇シンガポール:店舗等の賃貸借に関する新たな行動基準の制定(2) 松本岳人(2021/07/08)

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シンガポール:店舗等の賃貸借に関する新たな行動基準の制定(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 松 本 岳 人

 

(承前)

5. データの透明性

 店舗等賃貸借行動基準には、上記の原則のほかにショッピングモールなど賃貸人が個々の店舗等から売上データを収集している場合に、他の賃借人にも一定の範囲で売上データを共有する義務や、賃貸人及び賃借人それぞれに共有したデータの守秘義務を課すなど情報共有のあり方に関するルールなども規定されている。

 

6. 店舗等賃貸借行動基準の遵守確保及び紛争解決の枠組み

 店舗等賃貸借行動基準への適合性を確保するため、賃貸人としては11の原則に関するチェックリストを契約に添付して、遵守状況を賃借人とともに確認することが求められている。賃貸借契約の交渉過程において、店舗等賃貸借行動基準を逸脱する内容での条件を要求された場合、当事者は公正賃貸借委員会にその旨を報告することができる。公正賃貸借委員会としては、複数の違反報告があった事業者の名称を公表するといった措置をとることとされている。

 また、賃貸借の条件について紛争が生じ、当事者間で解決できない場合には、シンガポール調停センター(Singapore Mediation Centre)に申し立てることができ、調停によって紛争解決を目指す枠組みも規定されている。

 

7. 終わりに

 店舗等賃貸借行動基準は、現状はあくまで法的拘束力のない自主的な基準ではあるものの、今後店舗等賃貸借行動基準がシンガポールでの店舗等の賃貸借の条件の標準的なものとなる可能性もある。従来シンガポールの賃貸借については日本の借地借家法のような賃借人保護法制や、信頼関係破壊の法理といった賃借人を保護する理論も特にないこともあり、一般的には賃貸人に有利な契約条項が多く規定された契約書を目にする機会が多かったが、今後かかる実務が見直される可能性がある。一方で、店舗等賃貸借行動基準は、当事者間の公平性及び均衡を意図したルールであるため、交渉力の強い賃借人との関係では、賃貸人にとって有利に働く可能性のある条項も盛り込まれている。そのため、賃貸人、賃借人いずれの立場に立つ者も店舗等賃貸借行動基準をよく理解した上で、将来の賃貸借の交渉に臨む必要があると考えられる。

 


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(まつもと・たけひと)

2005年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2007年慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2008年に長島・大野・常松法律事務所に入所後、官庁及び民間企業への出向並びに米国留学を経て、2017年から2020年まで長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィス勤務。現在は、日本及び東南アジア地域での不動産・インフラ関係の案件を中心に企業法務全般についてアドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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