◇SH3699◇フィリピン:小売業に関する外資規制の改正動向続報(2) 坂下大(2021/07/29)

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フィリピン:小売業に関する外資規制の改正動向続報(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

(承前)

現行法 上院案による改正の内容
5. 外国投資家に求められる要件
  1. ・ 小売業に参入する外国投資家は、以下の要件を充足する必要がある。

    1. ✓ 純資産2億米ドル(約220億円)以上(ハイエンド品等に特化する者の場合は5,000万米ドル以上)。
    2. ✓ フィリピン国外において5つ以上の店舗又はフランチャイズを有するか、2,500万米ドル以上の資本を有する店舗を1つ以上有する。
    3. ✓ 5年以上の小売業の実績。
    4. ✓ フィリピン国民が小売業を行うことを認めている国から投資を行う者である(いわゆる相互主義)。

 

  1. ・ 相互主義の点を除いて、左記の要件は全て撤廃。
6. 国内調達
  1. ・ 現在も効力を有する関連義務規定はなし。
  1. ・ 外資の出資を受けた小売事業者は、フィリピン産の在庫を保有することが推奨される。

 

 上記のとおり、上院で承認された改正法案は、国内の中小零細小売事業者や雇用への配慮を引き続き行いつつも、払込資本金要件や投資額要件における金額を引き下げ、また大規模かつフィリピン国外で小売業の実績のある者でなければ充足困難であった「外国投資家に求められる要件」をほぼ撤廃する等、現在の小売業における高い外資参入障壁を大幅に引き下げるものである。前稿に記載のとおり、この上院の改正法案には、2020年3月に下院で承認済みの改正法案(59号)とは異なる内容が含まれていることから、今後両院協議会による内容確定のための手続が行われる。もっとも、下院案は、例えば払込資本金要件の金額を上院案よりも低い20万米ドル(約2,200万円)とし、投資額要件を撤廃し、上院案と同様に「外国投資家に求められる要件」をほぼ撤廃する等、上院案と同等かそれ以上に現在の規制を緩和するものとも評価し得る内容であるため、やはり大幅な規制緩和の方向で最終的な改正内容がまとまる見込みが高い。そして、従前から小売業への外資規制の緩和を重要な政策課題として捉えてきたドゥテルテ大統領は、2021年に入ってからも、小売自由化法の改正法案を優先して審議すべきものと位置付け、その成立を急ぎたい意向を再々示している。今後も法案審議の状況を引き続き注視する必要がある。

 


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(さかした・ゆたか)

2007年に長島・大野・常松法律事務所に入所し、クロスボーダー案件を含む多業種にわたるM&A、事業再生案件等に従事。2015年よりシンガポールを拠点とし、アジア各国におけるM&Aその他種々の企業法務に関するアドバイスを行っている。

慶應義塾大学法学部法律学科卒業、Duke University, The Fuqua School of Business卒業(MBA)。日本及び米国カリフォルニア州の弁護士資格を有する。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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