SH3745 消費者庁、改正公益通報者保護法に関する指針を公表 池田彩穂里/高亮(2021/09/07)

組織法務公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

消費者庁、改正公益通報者保護法に関する指針を公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 池 田 彩穂里

弁護士 高     亮

 

 2020年6月12日に成立し公布された改正公益通報者保護法(令和2年法律51号、同日から2年以内の政令に定める日に施行予定であり、現在、2022年6月1日施行に向けて準備を進めている[1]。以下、単に「法」という。)では、事業者に対し、公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとること(法11条2項)、これらの必要な措置をとる業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定めること(法11条1項)が義務付けられた(なお、常時勤務する労働者数が300名以下の事業者については、法11条3項により努力義務とされている。)。

 上記の法11条1項および2項に基づき事業者がとるべき措置については、追って内閣総理大臣が指針を定めるものとされている(法11条4項)ところ、2021年8月21日消費者庁より、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号[2])が公表された。この指針は、2021年4月28日から実施されたパブリックコメント手続において寄せられた意見等を踏まえた内容となっている。

 本項では、本指針の内容について簡単に紹介する。なお、本指針については、消費者庁において「指針の解説」を作成中であり[3]、同解説においてより詳しい解説がなされる予定である。

 

1 本指針の内容

 本指針の主な内容は、以下のとおりである。

 ⑴ 用語説明

 以下のとおり、本指針で用いられる用語について、説明が付されている。

公益通報

法2条1項に定める「公益通報」をいい、処分等の権限を有する行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合も含む。

公益通報者

「公益通報者」とは、法2条2項に定める「公益通報者」をいい、公益通報をした者をいう。

内部公益通報

法3条1号および6条1号に定める公益通報をいい、通報窓口への通報が公益通報となる場合だけではなく、上司等への報告が公益通報となる場合も含む。

事業者

法2条1項に定める「事業者」をいい、営利の有無を問わず、一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行を行う法人その他の団体および事業を行う個人であり、法人格を有しない団体、国・地方公共団体などの公法人も含まれる。

労働者等

法2条1項に定める「労働者」および「派遣労働者」をいい、その者の同項に定める「役務提供先等」への通報が内部公益通報となり得る者をいう。

役員

法2条1項に定める「役員」をいい、その者の同項に定める「役務提供先等」への通報が内部公益通報となり得る者をいう。

退職者

労働者等であった者をいい、その者の法2条1項に定める「役務提供先等」への通報が内部公益通報となり得る者をいう。

労働者および役員等

労働者等および役員のほか、法2条1項に定める「代理人その他の者」をいう。

通報対象事実 法2条3項に定める「通報対象事実」をいう。

公益通報対応業務

法11条1項に定める「公益通報対応業務」をいい、内部公益通報を受け、ならびに当該内部公益通報にかかる通報対象事実の調査をし、およびその是正に必要な措置をとる業務をいう。

従事者

法11条1項に定める「公益通報対応業務従事者」をいう。

内部公益通報対応体制

法11条2項に定める、事業者が内部公益通報に応じ、適切に対応するために整備する体制をいう。

内部公益通報受付窓口

内部公益通報を部門横断的に受け付ける窓口をいう。

不利益な取扱い

公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して行う解雇その他不利益な取扱いをいう。

範囲外共有

公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為をいう。

通報者の探索

「通報者の探索」とは、公益通報者を特定しようとする行為をいう。

 

 ⑵ 従事者の定め(法11条1項関係)

従事者として定めなければならない者の範囲

事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。

従事者を定める方法

事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。

 

 ⑶ 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法11条2項関係)

内部公益通報受付窓口の設置等

内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署および責任者を明確に定める。

組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置

内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報にかかる公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。

 

公益通報対応業務の実施に関する措置

内部公益通報受付窓口において内部公益通報(匿名による場合を含む。)を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。

上記の調査の結果、通報対象事実にかかる法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。

 

公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる。

 

 ⑷ 公益通報者を保護する体制の整備

不利益な取扱いの防止に関する措置

事業者の労働者および役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者および役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

 

範囲外共有等の防止に関する措置

事業者の労働者および役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

事業者の労働者および役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。

範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者および役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

 

 ⑸ 内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置

労働者および役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置

法および内部公益通報対応体制について、労働者および役員なら退職者に対して教育・周知を行う。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。

労働者および役員ならびに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。

 

是正措置等の通知に関する措置

書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報にかかる通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報にかかる通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行および利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通報を行った者に対し、速やかに通知する。

 

記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者および役員への開示に関する措置

内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。

内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う。

内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行および利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者および役員に開示する。

 

内部規程の作成および運用に関する措置

この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する。

以 上

 

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(いけだ・さおり)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2005年東京大学法学部卒業。2007年東京大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(所属弁護士会)。2015年UCLA・ロースクール(LLM)修了。2017年ニューヨーク州弁護士登録。主な業務分野はコーポレート、労働法及びライフサイエンス。

 

(こう・りょう)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2008年早稲田大学法学部卒業。2011年京都大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(第一東京弁護士会)。同年高井・岡芹法律事務所入所。2020年当事務所入所。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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