公取委、第219回 独占禁止懇話会の議事概要の公表について
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士 臼 杵 善 治
令和3年10月18日、公正取引委員会(以下「公取委」という)より、令和3年9月24日にオンラインで開催された第219回独占禁止懇話会[1]の議事概要が公表された[2]。公取委は、デジタル化による経済社会の劇的な変化に即応して競争政策を有効かつ適切に推進することが期待されており、公取委と有識者との意見交換の場である独占禁止懇話会は、公取委による適切な競争政策の適切な推進の一助として機能している。第219回独占禁止懇話会では、以下の3つの議題が取り扱われたが、その中でも特に各会員から質問の多かった、1②アップル・インクに対する独占禁止法違反被疑事件の処理についておよび2①令和2年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組について簡単に紹介する。
第219回独占禁止懇話会 議題
1 ①令和2年度における独占禁止法違反事件の処理状況 2 ①令和2年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組 3 令和2年度における企業結合関係届出の状況及び主要な企業結合事例 |
1 アップル・インクに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について
⑴ 事案の概要
公取委は、令和3年9月2日に、平成28年10月から5年以上続けてきたアップル・インク(以下「アップル」)に対する審査に関し、アップルから関連するApp Store Reviewガイドラインの規定を改訂する等の改善措置の申出がなされ、当該内容を精査した結果、独占禁止法違反の疑いを解消するものであるとして、かかる独占禁止法に基づく審査を終了することとしたことを公表した[3]。以下では、ポイントを簡単に紹介する(事案の詳細は公取委の公表資料参照)。
アップルは、App Storeに掲載するアプリが遵守すべきガイドラインを公表し、アップルがこのガイドラインを遵守していないと判断したアプリはApp Storeへの掲載を行うことができないルールとなっている。当該ガイドラインでは、アプリの開発者(デベロッパー)が、アプリ内でデジタルコンテンツの販売等を行う場合には、アップルが指定する決済方法であるIAPの使用を義務付けるとともに、消費者をIAP以外の課金による購入に誘導するボタンや外部リンクをアプリに含める行為(以下「アウトリンク」という。)を禁止していた。そして、アップルは、IAPの使用の対価として、売上げの15または30%を手数料として徴収していた。
スマートフォンへの音楽配信事業、電子書籍配信事業および動画配信事業(以下「音楽配信事業等」という。)では、著作権料等の負担が大きいため、アプリの開発者(デベロッパー)にとっては、アップルへのIAPの手数料の支払いがかなり重い負担となっていた。IAPの手数料の支払いを避けるためには、アプリ内でデジタルコンテンツを販売等せずに、ユーザーがウェブサイト等で購入したデジタルコンテンツをもっぱら視聴等するアプリ(以下「リーダーアプリ」という。)とする必要があった。たとえば、Amazonが提供するiPhone用のKindleアプリは、いわゆるリーダーアプリであり、IAPによる決済を採用しておらず、また、ガイドラインによりアウトリンクを認められていないため、別途消費者は自主的に電子書籍の購入のためにAmazonのサイトに移動し電子書籍を購入する必要がある。
公取委は、このようにアウトリンクを禁止する行為は、IAP以外の課金による販売方法を十分に機能しなくさせたり、アプリの開発者(デベロッパー)がIAP以外の課金による販売方法を用意することを断念させたりするおそれがあり、独占禁止法上問題となり得ると考えていたところ、アップルから、ガイドラインを改訂し音楽配信事業等におけるリーダーアプリについてアウトリンクを許容するという申出を受けたため、審査を終了する方針とした。
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(うすき・よしはる)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2003年慶應義塾大学法学部卒業。2006年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第一東京)。2015年University of London, LL.M. in Competition Law修了。公正取引委員会による審査手続対応、海外当局による調査手続対応、国内外の競争法当局に対する企業結合届出のサポート、競争法コンプライアンスマニュアル作成・競争法コンプライアンストレーニング等の多数の案件を取り扱っている。
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