SH3855 経産省、日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査結果を公表 龍野滋幹(2021/12/14)

組織法務サステナビリティ

経産省、日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する
取組状況のアンケート調査結果を公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 龍 野 滋 幹

 

1 「ビジネスと人権」に関する世界の潮流と日本における状況

 経済産業省(以下「経産省」という。)は、外務省と連名で、「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」(以下「本調査」という。)を実施し、2021年11月30日付けで、その結果を公表した。本調査は、日本企業のビジネスと人権への取組み状況に関する政府として初の調査である。

 「ビジネスと人権」に関しては、2011年に国連人権理事会の関連決議において「ビジネスと人権指導原則」[1](以下「指導原則」という。)が全会一致で採択された。指導原則は、企業が、世界人権宣言、国際人権規約、ILO中核的労働基準をはじめとする国際人権基準を尊重する責任を負うことを明記した国際文書であり、各国の法令等の基礎となる根幹的文書として位置づけられており、欧米では人権侵害のリスクがないか、企業にチェックするよう求める法令がすでに広がっている。

 

人権リスク対応を求める法令が広がる
英国 2015年、「現代奴隷法」を制定。企業に人権リスクの分析・公表求める
フランス 17年、「企業注意義務法」を制定。人権デューデリジェンス義務化
オランダ 19年、「児童労働デューデリジェンス法」を制定
ドイツ 21年3月、「サプライチェーン注意義務法」を閣議決定
EU 21年、欧州委員会が企業に人権デューデリジェンスを課す法案を提出へ
豪州 18年、「現代奴隷法」を制定
米国 10年、カリフォルニア州が「サプライチェーン透明法」を制定

(出典:2021年5月31日付日本経済新聞朝刊15面)

 

 これに対して日本においては、政府が2016年に行動計画の策定を表明して以来、ようやく「『ビジネスと人権』」に関する行動計画(2020-2025)」[2](以下「行動計画」という。)が2020年10月に策定され、人権方針の策定、人権デュー・ディリジェンスの実施、苦情処理・問題解決制度等の救済メカニズムの構築が明示されたところであるが、未だ法令等として制定されているものではなく、人権デュー・ディリジェンスの実施を含めて、これらを行うことについての企業への「期待」を示すにとどまっている。

 もっとも、行動計画においては、その実施に取り組む上で、特に重要と考える5点が優先分野として挙げられているところ、とりわけ、唯一の実体的なテーマとして取り上げられている「サプライチェーンにおける人権尊重」は、日本企業のグローバル化、多様化に伴い途上国・新興国にかかわるビジネス展開の中で真摯な取組みが求められる事項である。これらの状況を踏まえ、本調査は、政府が今後の政策対応を検討するに当たって、企業による人権デュー・ディリジェンスをはじめとする人権関係の取組みについて、その実態や課題を把握すべく調査を実施したものである。

この記事はプレミアム向け有料記事です
ログインしてご覧ください


(たつの・しげき)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2000年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所事務所入所。2007年米国ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2008年ニューヨーク州弁護士登録、2007年~2008年フランス・パリのHerbert Smith法律事務所にて執務。2014年から東京大学大学院薬学系研究科・薬学部「ヒトを対象とする研究倫理審査委員会」審査委員。国内外のM&A、ジョイント・ベンチャー、投資案件やファンド組成・投資、AI・データ等の関連取引・規制アドバイスその他の企業法務全般を取扱っている。週刊東洋経済2020年11月7日号「「依頼したい弁護士」分野別25人」のM&A・会社法分野で特に活躍が目立つ2人のうち1人として選定。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

<連絡先>
〒100-8136 東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

 

タイトルとURLをコピーしました