SH3941 人的資本などの評価方法を検討、参考指針取りまとめに向け「非財務情報可視化研究会」が審議開始――事務局は新しい資本主義実現本部事務局と経産省、指標・開示項目など論点の検討が進む (2022/03/16)

組織法務経営・コーポレートガバナンスサステナビリティ

人的資本などの評価方法を検討、参考指針取りまとめに向け
「非財務情報可視化研究会」が審議開始
――事務局は新しい資本主義実現本部事務局と経産省、指標・開示項目など論点の検討が進む――

 

 非財務情報可視化研究会(座長・伊藤邦雄一橋大学CFO教育研究センター長)の初会合が2月1日に開催され、3月7日には第2回会合が開かれた。「非財務情報を企業開示の枠組みの中で可視化することで、株主との意思疎通の手段の強化を図るべく、人的資本など非財務情報についての価値を評価する方法について検討を行い、企業経営の参考となる指針をまとめる」こととされており、当該参考指針について今夏の取りまとめが見込まれる。

 研究会の構成員は座長を始めとする計14名。企業関係者、投資家・金融機関関係者、コーポレート・ガバナンス関係の有識者に加え、いわゆる基準設定団体の役員およびボードメンバー、金融庁総合政策局審議官、経済産業省経済産業政策局企業会計室長が参画している。研究会の庶務は経産省の協力を得て内閣官房新しい資本主義実現本部(以下「実現本部」という)事務局が務める。初会合の議事要旨によると、研究会構成員以外の出席者として、新しい資本主義実現会議(議長・首相。以下「実現会議」という)の有識者構成員2名、オブザーバーとなる金融庁企画市場局企業開示課長および他の基準設定団体関係者1名、事務局から実現本部事務局長代理・事務局次長の名がみられる。

 初会合における配付資料中に「人的資本の価値を評価する方法についても、各企業が参考になるよう、専門家に研究いただき、今夏には、参考指針をまとめていただきたいと思います」とする首相の見解が紹介されているほか、第208回国会における首相の施政方針演説(2022年1月17日)によれば、政府が重点を置く「人への投資の抜本強化」を巡り「人的投資が、企業の持続的な価値創造の基盤であるという点について、株主と共通の理解を作っていくため、今年中に非財務情報の開示ルールを策定」するとされている。実現会議の昨年11月8日開催・第2回会合で取りまとめられた緊急提言には「企業の人的投資を促進するため、金融審議会において、企業の人的資本への投資の取り組みなどの非財務情報について有価証券報告書の開示の充実に向けた検討を行う」といった記述がみられたところである。なお、人的資本を含む非財務情報の開示に関する近時の検討成果として、非財務情報の開示指針研究会(座長・北川哲雄青山学院大学名誉教授/東京都立大学特任教授、事務局・経産省経済産業政策局企業会計室)による中間報告「サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて」(2021年11月12日)がある(SH3842 経産省、非財務情報の開示指針研究会 中間報告 齋藤宏一/川目日菜子(2021/11/30)参照)。

 初会合の配付資料から「論点(案)」をみると、(ア)「金融商品取引法上の有価証券報告書における非財務情報の開示充実を前提としたときに、企業はどのように開示に取り組むべきか」、(イ)「企業が任意で行う開示(統合報告書、サステナビリティ報告書等)についても、投資家との対話・エンゲージメントの参考となる指針を整理することが考えられるが、その内容としてどのようなものが求められるか」といった視点が明らかにされている。上記(イ)に係る具体的な論点としては、次の3点が挙げられた。①「企業の成長戦略と無形資産投資の関連付けや、財務情報と非財務情報の統合性を向上させるために参考となる指針として何が必要か」、②「企業による人的投資を見える化し、投資家やステークホルダーとの意思疎通を促すため、どのような指標やKPIを整理し、示すべきか」、③「投資家による情報の比較可能性や、国際的な非財務情報開示のフレームワークや基準等との整合性をどのように確保するべきか」。

 事務局による「基礎資料」では「国外の非財務情報開示のフレームワーク・基準」について、その内容や動向の紹介がなされた。一方、国内については「金融商品取引法、会社法に基づく制度開示(有価証券報告書、事業報告書)が定められているほか、統合報告書等の任意開示のフレームワークとして経済産業省が価値協創ガイダンスを示している」とする。

 本資料から「ISO30414:人的資本マネジメントー内部及び外部の人的資本報告に関するガイドライン」をみると、「開示すべき指標」として次の11項目が掲げられている。(1)コンプライアンスと倫理、(2)コスト、(3)ダイバーシティ、(4)リーダーシップ、(5)組織文化、(6)組織の健康・安全・幸福度、(7)生産性、(8)採用、流動性、離職率、(9)スキルと能力、(10)後継者計画、(11)従業員の可用性。なお、上記・非財務情報の開示指針研究会による中間報告によれば、「開示項目の例」として次のものが挙げられる(編注・「価値向上」のための開示と「リスクマネジメント」のための開示とに整理しており、前者の視点が強いものから後者の視点が強いものへと順に並べられる)。(1)育成:①リーダーシップ、②育成、③スキル/経験、(2)エンゲージメント、(3)流動性:①採用、②維持、③サクセッション、(4)ダイバーシティ:①ダイバーシティ、②非差別、③育児休暇、(5)健康・安全:①安全、②身体的健康、③精神的健康、(6)労働慣行:①労働慣行、②児童労働/強制労働、③賃金の公正性、④福利厚生、⑤組合との関係、(7)コンプライアンス/倫理。

 第2回会合の配付資料「特にご議論頂きたい事項」によると、本資料では参考指針の具体化に向けて重視すべきポイント・留意点を例示している。たとえば「財務情報と非財務情報の関係性」について(i)「前回の研究会では、……非財務情報について、中⻑期的な企業価値との関係性(将来キャッシュフローへの影響や財務指標との相関関係や因果関係)に力点を置いて示していくことが、現行の会計基準との関係でも、企業価値評価を行う投資家との関係でも、またIFRS財団を始めとする国際的な基準策定主体における議論との整合性との関係でも望ましいという指摘があった」と説明しつつ、(ii)「これらを踏まえ、参考指針においては、財務情報と非財務情報の関係性の見える化に力点をおいて議論を進めていくことが望ましいか」と確認。

 「指標・開示項目」に関しては、(i)前回の研究会において、人的投資関連情報につき「① 企業の成⻑戦略を示す観点から開示する項目と、リスクマネジメントの観点から開示する項目」「② 企業独自的な開示項目と、比較可能な形で開示することが望まれる項目」「③ 日本固有の状況に沿った開示項目と、グローバルに共通的に求められる開示項目」などの区別について議論があったとし、(ii)「指標や開示項目に関する考え方を、どのように整理していくことが望ましいか」と提起している。

 

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