「秘密情報の保護ハンドブック」および
「限定提供データに関する指針」の改訂案
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士 後 藤 未 来
弁護士 小 松 侑 太
1 はじめに
ブロックチェーンやAI・IoT技術をはじめとするデジタル・ネットワーク技術の更なる進化、それらのビジネスへの浸透に伴い、今後も、企業活動における情報資産の重要性が増大していくことが予想される。
こうした情報資産のわが国での法的保護の枠組みとしては、契約によるものを除けば、不正競争防止法(以下「不競法」という。)、特許法・著作権法・不法行為法(民法)が主なものである。このうち、不競法に関しては、「営業秘密」による保護に加えて、平成30年法改正(令和元年7月1日施行)により「限定提供データ」(不競法2条7項)の制度が新たに導入された。また、これら法的保護の対象となるか否かにかかわらず、企業の事業活動に有用な情報が企業内で秘密のまま保持されることは、(その情報が不競法上の営業秘密として法的に保護されない場合であっても)当該企業の競争力を維持・向上させるのに資するものである。
上記の「限定提供データ」をめぐる法解釈等に関しては、経済産業省により「限定提供データに関する指針」(平成31年1月23日付)が策定され、また、企業内での情報の秘密保持に関しては、平成28年2月に同省により「秘密情報の保護ハンドブック」が策定された。
今般、秘密情報やデータをめぐる社会情勢の進展等を踏まえ、経済産業省の産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会において、上記の指針およびハンドブックの改訂が議論され、令和4年3月23日にその改定案が公表された。これらは、未だ改定「案」の段階のものではあるが、現時点での議論の到達点とその方向性を把握しておくことは、実務上も有益であろう。
本稿では、これら指針およびハンドブックの位置づけを概観しつつ、それぞれの改訂案のポイントを解説する。
2 「秘密情報の保護ハンドブック」の改訂案について
⑴ 「秘密情報の保護ハンドブック」とは
「秘密情報の保護ハンドブック」とは、秘密情報を決定する際の考え方や、その漏えい防止のために講ずるべき対策例、万が一情報が漏えいした場合の対応方法等を、近年の情報漏えいの具体的事例を交えて示すことで、秘密情報の管理の適切な実施を可能にするために、平成28年(2016年)2月に策定されたものである。このハンドブックが対象とする「秘密情報」とは、不競法上の法的な保護対象となる「営業秘密」よりも広く、他者に対して秘密とすることでその価値を発揮する情報を指すものとされている。
「秘密情報の保護ハンドブック」は、そのように法的保護レベルを超えた広義の「秘密情報」を対象として、企業における情報漏えい防止のために有効と考えられる対策等が具体例を用いて紹介されており、企業が自社の情報資産を保護・活用していくための有用な参考資料を提供するものとなっている。
なお、不競法上の法的保護の対象となる「営業秘密」に関しては、経済産業省が策定した「営業秘密管理指針」が存在する。これは、営業秘密として法的保護を受けるために必要となる最低限の水準の対策を示すものである(下図)。
※出典 経済産業省知的財産政策室「秘密情報の保護ハンドブック」の改訂(改訂方針と改訂ポイント)2022年3月[1]
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(ごとう・みき)
弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。弁護士・ニューヨーク州弁護士。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。京都大学理学部卒業・東京大学大学院工学系研究科修了・神戸大学法科大学院修了・スタンフォード大学ロースクール卒業(LL.M.)。特許・営業秘密等の知的財産やシステム開発・製造物責任等の技術関連の紛争処理、データ・インターネット関連案件を得意とする。
(こまつ・ゆうた)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2012年東京大学工学部卒業。2014年東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修了。2017年東京大学法科大学院修了。2018年弁護士登録(第一東京弁護士会)。主な取扱い分野は、知的財産法。
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