SH4256 タイ:民商法の会社法制に関する改正(2) 中翔平(2022/12/27)

組織法務経営・コーポレートガバナンス

タイ:民商法の会社法制に関する改正(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中   翔 平

(承前)

3 株主総会の招集公告の撤廃

 現行の民商法では、非公開会社は、株主総会の7日前(特別決議を要する場合は14日前)までに、各株主に対して書面により招集通知を行い、かつ、新聞公告を行うことが求められていた。本改正法では、無記名式株券を発行する場合を除き、株主総会の招集に関する新聞公告を行うことが不要となった。本改正法により株主総会の招集に関する新聞公告を行うための所要の事務手続を省くことができる点で実務上一定の意義があると考えられる。もっとも、一般的に、非公開会社の定款には、現行の民商法の規定に従い、株主総会の招集のために招集通知及び新聞公告を行う旨が規定されていることが通常であるため、このような規定が残存する限り、本改正法の施行後も新聞公告を行うことが求められると考えられる。そのため、実際に本改正法に従って新聞公告の手続を省略するためには、本改正法の施行後最初の株主総会において新聞公告の要件を撤廃するための定款変更を行う必要がある場合がある点に留意されたい。

4 吸収合併制度の新設

 現行の民商法では、合併当事会社の権利義務関係を全て新規に設立される会社に承継させる新設合併のみが認められており、合併当事会社のいずれかが合併後も残存する吸収合併の制度は認められていなかった。本改正法では、従来の新設合併に加えて、吸収合併による合併を認める改正がなされた。新設合併を行う際には、新設会社の設立手続や両合併当事会社において、外資規制・業法上のライセンスの移転及び労働契約の承継に係る労働者の同意[1]の取得の手続等を行う必要があった。吸収合併による合併が認められれば、法的な観点からは、合併当事会社が保有するライセンスの移転の煩雑さや労働者の移転の数等を踏まえて、いずれの合併当事会社を存続会社として残すか等柔軟な検討が可能になると考えられる。

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 また、本改正法の下では、合併反対株主の株式買取制度が新設された。加えて、合併当事会社による共同株主総会の決議及び当該共同株主総会の定足数・決議要件等に関する事項も新たに規定されている。これらは新設合併及び吸収合併のいずれにも適用される。

5 オンラインによる取締役会の開催の明確化

 現行の民商法上、明示的にビデオ又は音声等のオンラインによる取締役会の開催を認める規定は存在しないものの、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として発付された2020年4月19日付緊急勅令その他の関連する規則(以下「本緊急勅令等」という。)に基づき、一定の要件の下、オンラインにより取締役会を開催することが認められている。本改正法では、民商法上、本緊急勅令等に従い、オンラインにより取締役会を開催することができる旨を明確にする改正がなされた[2]

6 株券の作成要件の変更

 現行の民商法では、株券の作成の際に会社印の押印は求められていなかった。もっとも、本改正法では、会社印を商務省に登録している場合には、株券に当該会社印を押印することが求められるようになった。実務上、株券の発行の際には会社印も併せて押印しているのが通常と思われるため、実務上の影響は小さいと考えられる。

以 上


[1] 合併は、事業譲渡と異なり包括承継であるものの、タイの労働者保護法上、合併に伴う雇用契約の承継に際しては、従業員の同意が必要となる。

[2] 本改正法では、ビデオ又は音声等のオンラインにより株主総会を開催することができる旨を明確にする改正はなされなかった。もっとも、従前と同様、本緊急勅令等に従い、一定の要件を満たした場合には、オンラインにより株主総会を開催することが可能である。

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(なか・しょうへい)

2013年に長島・大野・常松法律事務所に入所。プロジェクトファイナンス、不動産取引、 金融レギュレーション及び個人情報保護の分野を中心に国内外の案件に従事。2020年5月 にUniversity of California, Los Angeles School of Lawを卒業後、2020年12月より当事務所 バンコク・オフィスに勤務。現在は、主に、在タイ日系企業の一般企業法務及びM&Aのサ ポートを中心に幅広く法律業務に従事している。

 

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