ベトナム:労働監査制度(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
ベトナムでは、従来から、労働法令の遵守状況を確認し、労働関係・労働安全衛生を確保するため、当局が企業の労働法遵守状況を監査する制度がある。2021年には合計で2067件の監査が行われた。また、労働監査機関は、以下にも述べるように労働法令関連の告発を受理する機関でもあり、同年は12000近くの問題を摘発し、381件の陳情・告発を処理したと報告されている。これらの結果として、2021年は8810件の是正勧告書、82億ドン以上の罰金を伴う424件の行政違反決定書が発行されている。
これらの労働監査・行政処分は、外資系企業にも当然に及ぶものであり、過去には、日系企業が社会保険の申告・支払いに関連して行政処分を受けた例もある。また、最近でも、外資系企業に対する監査や告発において、団体交渉義務に関する違反や、補助金制度、社会保険制度等にかかる情報開示義務の違反等、重箱の隅を突くような指摘も度々されているようである。日系企業にも、いつ労働監査が入ってもおかしくないといえる。
今回は、労働監査制度の概要を紹介する。
1 労働監査の主体
ベトナムでは、日本の労働基準監督署のような労働監査を行う独立した機関があるわけではなく、労働傷病兵社会省(MOLISA)直轄の監査機関や地方の労働傷病兵社会局(DOLISA)直轄の監査機関が監査の権限を有します。これに加え、職業訓練、海外への労働者派遣、労働安全などの分野については、専門の監査部門(職業訓練総局、海外労働局及び労働安全局)がある(労働監督の組織・運営に関する政令第110/2017/ND-CP号(「政令110号」)第3条)。
2 労働監査の対象
労働監査の対象は、労働関連法令の遵守状況の監査、労働災害、労働安全・衛生違反に関する調査など、多岐にわたる。労働監査機関は、さらに、労働問題に関する不服申立・告発の解決、労働条件・労働安全衛生に関する基準制度及び技術規則の制度の適用の指導、労働違反行為の処分等にも関わっている(労働法第214条、第216条)。
(2)につづく
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(いのうえ・あきこ)
2008年東京大学法学部卒業。2010年東京大学法科大学院修了。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2018年より、長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス勤務。
日本企業によるベトナムへの事業進出、人事労務等、現地における企業活動に関する法務サポートを行っている。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
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