近時の漏えい等事案に対する個人情報保護委員会の対応(1)
―尼崎市におけるUSBメモリ紛失事案および株式会社メタップスペイメント漏えい事案―
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業
弁護士 井 上 乾 介
弁護士 伊 藤 雄 太
1 はじめに
本稿では、近時、社会的に大きな注目を集めた兵庫県尼崎市におけるUSBメモリ紛失事案および株式会社メタップスペイメント漏えい事案について、個人情報保護委員会(以下「委員会」という。)の、第209回委員会(2022年7月13日)で議論された対応を取り上げ、実務上の示唆を検討する。
2 尼崎市USBメモリ紛失事案への委員会の対応方針
⑴ 事案の概要
本件は、すでに大きく報道されているとおり、兵庫県尼崎市の全住民の住民基本台帳情報等の個人情報を記録したUSBメモリが一時紛失した事案(以下「本件紛失」という。)である[1]。
USBメモリ内の個人情報の内容および件数は以下のとおりである[2]。
個人情報の内容 | 件数 |
尼崎市全住民の住民基本台帳の情報 | 460,517件 |
住民税に係る税情報 | 360,573件 |
非課税世帯等臨時特別給付金の対象世帯情報 | 82,716件 |
生活保護受給世帯の口座情報 | 16,765件 |
児童手当受給世帯の口座情報 | 69,261件 |
当該USBを紛失したA氏(以下「A氏」という。)は、尼崎市から委託を受けていたBIPROGY株式会社(以下「ビプロジー社」という。)[3]の協力会社の社員である[4]。紛失から発見までの経緯は以下のとおりである[5]。
日時 | 経緯 | ||
6月21日(火) | 17時頃 | A氏が、尼崎市役所市政情報センターにて、給付金サーバからUSBメモリへのデータ抽出作業を実施。公共交通機関を利用して、臨時給付金コールセンターへUSBメモリを移送。 | |
18時~19時30分 | 臨時給付金コールセンターにて、USBメモリからデータ移行作業を実施。 | ||
19時半~22時30分 | A氏がUSBメモリを鞄に入れた状態で、ビプロジー社社員等3名[6]とともに飲食店へ。 解散時にA氏は鞄の所持を確認したが帰宅途中に寝入ってしまい、翌未明に帰宅。起床時にUSBメモリが入った鞄を紛失したことを認知。 |
||
6月22日(水) | 朝 | A氏が帰宅経路を捜索するも上記鞄を発見できず。A氏が警察署に遺失物届を提出。 | |
15時45分 | ビプロジー社から尼崎市に本件紛失について第一報。 | ||
6月23日(木) | ビプロジー社より、個人情報保護委員会へ漏えい報告(初報)の提出。 | ||
6月24日(金) | A氏と警察署職員にて改めて帰宅経路を捜索していたところ、吹田市内マンション敷地内にて鞄およびUSBメモリを発見。 |
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(いのうえ・けんすけ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。
(いとう・ゆうた)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2017年東京大学法学部卒業。2019年東京大学法科大学院卒業。2020年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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