ベトナム:ベトナム子会社の親子ローンによる
資金調達が難しくなる?
~外国ローン借入の規制に関する改正案~(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
1 背景
日本企業のベトナム子会社を含むベトナム企業が、ベトナム国外から借入をする際に、そのローンが期間1年超のもの(「中長期ローン」と呼ばれ、期間1年以内の「短期ローン」と区別されている。)であれば、国家銀行での登録手続が必要である。これに加えて、このような国外からの借入(以下、「外国ローン」という。)を行うには他にも条件が課されている。今般その条件を定めている通達第12/2014/TT-NHNN号(以下、「通達12号」という。)を改正する通達の草案(以下、「改正案」という。)が公開され、パブリックコメント手続に付されている。本稿では、その草案の内容を紹介する。なお、以下では借入人が金融機関以外であり、借入に政府保証が付かない場合を前提とする。
2 改正案による主な変更点
(a) 国外借入の金利上限
通達12号は、必要な場合に、ベトナム国家銀行総裁が、外国ローンの借入コストの上限を決定し発表するとしているが、実際にはこれまで国家銀行は借入コストの上限を発表していなかった。
この点、改正案9条では、以下のように外国ローンの借入コストの上限を規定している。
外国ローンの通貨 | 参照金利の使用の有無 | 上限 |
外貨 | あり | 参照金利 + 8%/年 |
なし | CME Term SOFR Rate + 8%/年 | |
VND | 問わず | 直近で新規発行されたベトナム政府10年債の金利 + 8%/年 |
(b) 担保エージェントの設定義務
改正案の8条2項によれば、ベトナム領土内にある財産を担保とする外国ローンの場合、担保権者と担保設定者が担保物による代物弁済により被担保債権を弁済することに合意する場合を除き、貸付人及び関連当事者は、担保実行にあたり、ベトナム国内の金融機関(外国銀行支店を含む。)等を担保エージェントとして指定しなければならない。担保エージェントはベトナムでもこれまでにプロジェクトファイナンスなどで使われてきたが、今後その指定が義務として必要になる点には留意が必要である。
(2)につづく
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(さわやま・けいご)
2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。
現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
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