◇SH0799◇インドネシア:特許法の改正 前川陽一(2016/09/15)

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インドネシア:特許法の改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 前 川 陽 一

 

 従前の特許法(2001年第14号)を全面的に改正する新特許法の法案が2016年7月28日に国会で可決された(なお、本稿執筆時点において大統領による裁可は確認できておらず、したがって新特許法の正式な発効日は現時点で公表されていない。)。インドネシア政府は、数年来、知的財産法制の見直しを進めており、2014年には新著作権法(2014年第28号)が旧法を全面改正する形で成立した。改正により、条文数は旧法の全139条から全173条へと増加し、より細かな規定が置かれている。改正は多岐にわたるが、本稿では日系企業を含む外資企業によるインドネシアへの投資活動に関係しうる改正点を取り上げる。

 

1. コンピュータ・プログラム

 旧法下において、コンピュータ・プログラムは、著作権の対象であるものの特許の対象とならないものと整理されていた。これに対して、新特許法は、「コンピュータ・プログラムのみを含む理論及び方法」を「発明」に該当しないものと明記しつつ、その注釈において、技術的効果や問題解決能力の機能を有するコンピュータ・プログラムは「発明」に該当し、特許の対象となりうるものと解説している。これにより新特許法の下では、コンピュータのソフトウェアでも特許を取得することができるようになったと解される。

 

2. 強制実施権

 強制実施権とは、一定の場合において特許権者の許諾がなくとも所管大臣の決定により申請者に与えられる当該特許の実施権であり、旧法は、①特許付与の日から36か月経過後において、特許権者が当該特許をインドネシアにおいて実施していない又は部分的にしか実施していない場合、②特許付与後いつでも、特許が公衆の利益を損なう形態又は方法で実施されている場合において認めることができる旨規定していた。新特許法においてもかかる枠組みは維持されているが、特に医薬品の特許について、①特許済みの医薬品を製造するため、②インドネシアにおいて未製造の特許済み医薬品を輸入するため、③発展途上国の要請に基づいて特許済み医薬品を輸出するために強制実施権が付与されうることが明記された。インドネシアでは旧法下において、大統領令によりHIV治療薬特許等の強制実施権を発動した実例がある。新特許法が医薬品特許にかかる強制実施権について明記したことが今後の運用にどのような影響を与えることになるのか注視したい。

 

3. 担保設定

 特許権が無形の財産権であり、信託担保権(fiducia)を設定することができる旨明記された。信託担保権とは、信託担保法(1999年第42号)に基づき、債務者が対象物を債権者に担保目的で譲渡し、債権者の委託を受けて債務者が当該対象物の占有を保持する担保権であり、有形・無形の動産及び抵当権の対象とならない不動産が信託担保の対象となる。信託担保権の設定には信託譲渡証書の作成及び登記所での登録が必要となってくるが、特許権の信託担保に関する手続の詳細について新特許法は別途政令で定めるものとしている。そのため実際の運用は政令の制定を待つことになる。

 

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