SH4216 「企業内容等の開示に関する内閣府令」の公表――サステナビリティ情報の拡充等 岡知敬/八坂俊輔(2022/11/29)

組織法務サステナビリティ

「企業内容等の開示に関する内閣府令」の公表

―サステナビリティ情報の拡充等―

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 岡   知 敬

弁護士 八 坂 俊 輔

 

1 はじめに

 近年、企業価値を評価する場合に、事業活動のサステナビリティに関する課題への対応状況が幅広い機関投資家の関心事となり、かかる情報開示のニーズに対応して、開示のフレームワークや項目に関してさまざまなガイドラインが国内外で策定され、上場企業はこれらに準拠または参照する形で、統合報告書等を通じた任意開示を拡充してきた。もっとも、投資判断にとって重要な情報であれば、開示責任や他社との比較可能性の確保の観点からも法定開示の対象となることは必定であり、2022年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下「DWG報告」という。)において、サステナビリティ情報の法定開示の充実に向けた提言がなされていたところである。

 かかるDWG報告を踏まえて、金融庁は、2022年11月7日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)および「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(以下「開示ガイドライン」という。)の改正案ならびに「記述情報の開示に関する原則」案(以下合わせて「本改正案」という。)を公表した。本改正案は、DWG報告を基本的に踏襲して、有価証券報告書等におけるサステナビリティ情報に関する法定開示を拡充させるものであるが、2023年3月期の有価証券報告書等から適用予定であり、上場企業への影響も大きく、注目される。本稿では、本改正案の内容を概観する。

 

2 サステナビリティに関する企業の取組の開示

 ⑴ サステナビリティ全般に関する開示

 本改正案では、有価証券報告書等に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、サステナビリティに関する「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」ならびに「指標及び目標」の4つの開示事項を定め、「ガバナンス」および「リスク管理」については、必須記載事項とし、「戦略」および「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求めることとしている。4つの開示事項の定義は以下のとおりである。

開示事項 定義
ガバナンス サステナビリティ関連のリスクおよび機会を監視し、および管理するためのガバナンスの過程、統制および手続
リスク管理 サステナビリティ関連のリスクおよび機会を識別し、評価し、および管理するための過程
戦略 短期、中期および長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスクおよび機会に対処するための取組
指標及び目標 サステナビリティ関連のリスクおよび機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、および監視するために用いられる情報

 開示ガイドライン改正案においては、①サステナビリティ情報や後述する取締役会等の活動状況を記載するに当たっては、要開示事項に加えて、当該事項を補完する詳細な情報について、統合報告書やアニュアル・レポート等の任意開示書類を参照することができることを規定するとともに、②参照先の任意開示書類に虚偽の表示または誤解を生ずるような表示があっても、当該書類に明らかに重要な虚偽の表示または誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照していた場合等当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書等の重要な虚偽記載等になり得る場合を除けば、単に任意開示書類の虚偽をもって直ちに虚偽記載等の責任を問われるものではないことが明確化された。

 新設される記載事項は、DWG報告での提案を踏襲するものとなっている。なお、サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、サステナビリティ情報の記載欄において当該他の箇所の記載を参照することができるとされている。

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(おか・ともゆき)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2004年東京大学法学部卒業。2006年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2012年米国University of Chicago(LLM)修了。2013年ニューヨーク州弁護士登録。国内外の資本市場における証券取引に多数従事しており、企業の開示に関する問題に精通。

 

(やさか・しゅんすけ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業アソシエイト。2014年慶應義塾大学法学部卒業。2016年東京大学法科大学院卒業。2017年弁護士登録(第二東京弁護士会)。キャピタルマーケットグループに所属。2019年~2021年、国内証券会社に出向。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

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アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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