SH4219 最新実務:スポーツビジネスと企業法務 NFTのマーケティングの法的留意点(4)――エアドロップやガチャ・パッケージ販売を中心に 加藤志郎/フェルナンデス中島 マリサ(2022/11/30)

取引法務消費者法表示・広告規制

最新実務:スポーツビジネスと企業法務
NFTのマーケティングの法的留意点(4)
―エアドロップやガチャ・パッケージ販売を中心に―

長島・大野・常松法律事務所
弁護士 加 藤 志 郎

フェルナンデス中島法律事務所
弁護士 フェルナンデス中島 マリサ

 

(承前)

⑵ 景品表示法に基づく景品規制
  1.  ア 全面禁止される景品類の提供
  2.    「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第3号。その後の改正を含み、以下、「懸賞制限告示」という。)第5項は、いわゆる「カード合わせ」、すなわち、二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供を、全面的に禁止している。そして、「コンプガチャ[22]」は、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法に該当し、懸賞制限告示第5項で禁止される景品類の提供行為に当たる場合があると解されている[23]
     
  3.  イ ランダム型販売における注意点
  4.    ランダム型販売を行う際、その販売方法が懸賞制限告示第5項で禁止されている景品類の提供に該当しないように注意する必要がある。
  5.    たとえば、ランダム型販売によって、特定の選手の動画等のNFTのうち指定されたA、B、Cの3種類を揃えると、その選手のレアNFTであるXをもらえるという仕組みの場合、Xは、ランダム型販売による取引に顧客を誘引するための手段として、当該取引に付随して提供する(当該取引を条件として提供する)経済上の利益といえ、「景品類」に該当する。そして、二以上の種類の符票のうち、A、B、Cという異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞により、Xという景品類を提供していることから、懸賞制限告示第5項で禁止されている景品類の提供に該当すると考えられる。
  6.    他方、特定の選手のNFTを、重複するものでもカウントして3つ集めると(すなわち、全く同じAを3つでもよい)、その選手のレアNFTをもらえるという仕組みの場合は、「異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法」ではなく、懸賞制限告示第5項で禁止されている景品類の提供には該当しないと考えられる。
⑶ 景品表示法に基づく表示規制[24]
  1.  ア 表示規制の概要
  2.    景品表示法は、商品・サービスの取引に関して行われる不当表示を規制している。同法上、「表示」とは、①顧客を誘引するための手段として、②事業者が自己の供給する商品・サービスの内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う③広告その他の表示であって、内閣総理大臣が指定するものをいう(景品表示法2条4項)。
  3.    そして、不当表示には、主に、(ⅰ) 商品・サービスの品質、規格その他の内容について、実際のもの又は競合他社に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に対して示す「優良誤認表示」(景品表示法5条1号)と、(ⅱ)商品・サービスの価格その他の取引条件について、実際のもの又は競合他社に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される「有利誤認表示」(景品表示法5条2号)の二種類がある[25]
  4.    ここでいう「著しく優良」または「著しく有利」に当たるかは、業界の慣行や表示を行う事業者の認識により判断するのではなく、表示の受け手である消費者の観点から判断される。また、「著しく」とは、当該表示の誇張の程度が、社会一般に許容される程度を超えて、消費者による商品・サービスの選択に影響を与える場合をいうと解されている[26]
  5.    NFTの販売事業者としては、販売に際して、NFTの希少性や価格高騰の可能性を強調したり、ゲーム参加型[27]のNFTについてはプレイヤーによる報酬やポイント等の獲得の可能性を強調したりすることで、消費者を引きつける狙いがありうる。これらの場合には、不当表示とならないよう注意する必要がある。
  6.    なお、オンラインゲームにおけるガチャに関しては、業界団体のガイドライン等において、表示に関する事業者向けの一定のルールが定められており、前述のスポーツエコシステム推進協議会等の各ガイドラインにおいても、消費者保護の観点から、射幸心を強く煽る内容の情報提供(例えば、特定のNFTについて将来の価格上昇や投機的価値が高いことを伺わせ、ユーザーの購買意欲を過度に煽るような広告等)は避けるべき旨や、実際よりも多い発行予定数や高い出現確率を表示したり、特定のNFTについて事実上出現することが期待できないにもかかわらず出現する旨を表示したりすることは不当表示となりうる旨が示されている点にも、留意する必要がある。
     
  7.  イ 不当表示に該当しうる場合
  8.    NFTのランダム型販売においては、「激レアNFTが当たるチャンス」や「●%の確率でレアNFTが出る」といった宣伝文句が想定される。この場合において、実際にはレアなNFTが一切含まれていないとすれば、社会一般に許容される程度を超えて、消費者による商品の選択に影響を与える誇張がなされたといえ、不当表示に該当すると考えられる[28]
  9.    また、異なる種類のNFTがランダムで当たると表示されているところ、実際には1種類のNFTが他に比べて高い割合で販売されており、結果的に消費者が複数回購入してもかかる同じ種類のNFTばかり出るような場合も、不当表示に該当する可能性がある。
  10.    NFTを購入した消費者が具体的にどのような権利を有するかは、通常、プラットフォームの利用規約等に定められており、画像等を利用可能な範囲、転売の可否等、それぞれ異なりうる。これに関して、実際の権利内容とは異なり、消費者にとって優良または有利であると誤解されるような表示を行った場合には、不当表示に該当する可能性がある。
  11.    その他、ゲーム参加型のNFTの販売に際しては、実際はそうではないにもかかわらず、購入したNFTを用いてゲームに参加することでユーザーが高額の報酬等を獲得できると誤解させるような表示を行うことも、不当表示に該当しうると考えられる[29]
     
  12.  ウ 二次流通時に事業者が表示規制の対象となるか
  13.    NFTの二次流通プラットフォームを運営している事業者は、当該プラットフォームにおける二次流通時に出品者である消費者によりなされた誇張した表示に関して、表示規制の対象となるか。
  14.    この点、規制対象となるためには、当該事業者が「自己の供給する」商品・サービスの取引に関する事項について行うものであること(以下、「供給主体性」という。)および表示行為の主体であること(以下、「表示主体性」という。)が認められる必要がある。
  15.    供給主体性については、商品・サービスの提供や流通の実態を見て実質的に判断されることになり、必ずしも取引の直接の当事者のみに認められるものではない[30]。そのため、個別の事案に応じた検討が必要であるが、二次流通における取引が専ら消費者間で行われ、プラットフォームの提供を通じた事業者の関与がごく限定的なものに過ぎないようなケースであれば、事業者に供給主体性が認められる可能性は低いように思われる。
  16.    表示主体性については、不当表示の内容の決定に関与した事業者につき認められる。この場合の「決定に関与」とは、自ら又は他の者と共同して積極的に当該表示の内容を決定した場合のみならず、他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた場合や、他の者にその決定を委ねた場合も含まれると解されている[31]。この点も、表示の経緯・状況等の具体的な事情に照らして個別に検討する必要がある。
  17.    いずれにせよ、NFTの二次流通プラットフォームを運営する事業者としては、消費者間のトラブル防止等の観点からも、表示に関するガイドラインを作成する、出品者が自ら出品したNFTについてコメントできないようにする等、対策を講じることも考えられる。

以 上

 


[22] 「コンプガチャ」とは、2011年から2012年頃までオンラインゲーム界で話題となっていた「コンプリートガチャ」と呼ばれるアイテム入手手法で、ゲーム内で使用するアイテムをくじ引きのような仕組みで購入するガチャを引き、特定の数種類のアイテムを全部揃えると、別のレアアイテム等を新たに入手できるという仕組みのものである。コンプガチャは、レアアイテム等を入手したいというユーザーの射幸心をあおる度合いが著しく強いところ、オンラインゲームは収入の少ない若者や学生、未成年でも気軽に利用でき、現金決済が不要であるため、気が付かないうちに高額課金してしまうケースが続出し、社会問題となった。

[23] 「オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について」(平成24年5月18日消費者庁)

[24] その他、「通信販売」として特定商取引に関する法律が適用される場合(同法2条2項)には、広告表示義務(同法11条)、誇大広告等の禁止(同法12条)等の対象となる。

[25] 優良誤認表示又は有利誤認表示に該当するためには、加えて、「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる」必要がある。

[26] 「著しく優良」および「著しく」の解釈に関して、「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針」(平成15年10月28日公正取引委員会)参照。

[27] ゲーム参加型のNFTとしては、たとえば、ユーザーが集めた選手のデジタルコレクティブルを用いてチーム編成等を行い、各選手の実際の試合におけるパフォーマンスに基づいてポイント化がなされ、ユーザー間で順位を競い合うものがあり、海外の代表的なものとしてSorareや、国内のものとして川崎ブレイブサンダースおよび運営主体である株式会社DeNA川崎ブレイブサンダースがサービス提供するPICK FIVE等がある。

[28] なお、「●%の確率でレアNFTが出る」といった表示を行う場合には、確率の計算方法が店頭で販売されるいわゆるガチャガチャ(1回引く毎に確率が上がっていく)とは異なりうることを考慮して、消費者に誤解を与えないよう、必要に応じて説明を工夫すること等も考えられる。独立行政法人国民生活センター「オンラインゲームの「ガチャ」で欲しいレアアイテムが出ない」(https://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_box-faq_qa2018_09.html)参照。

[29] また、そもそもブロックチェーンを一切使用しておらず、通常、NFTとは呼べない単なる画像データ等であるにもかかわらず「NFT」と表示することも、不当表示に該当しうると考えられよう。

[30] たとえば、不動産売買の仲介業者が、仲介する不動産に関して表示を行う場合、売買契約の当事者ではないものの、「自己の供給する」不動産について表示を行っていると見られる(西川・前掲注[7] 46頁)。

[31] また、当該表示が不当表示であることについて、故意又は過失は不要と解されている(東京高判平成20・5・23)。

 


(かとう・しろう)

弁護士(日本・カリフォルニア州)。スポーツエージェント、スポンサーシップその他のスポーツビジネス全般、スポーツ仲裁裁判所(CAS)での代理を含む紛争・不祥事調査等、スポーツ法務を広く取り扱う。その他の取扱分野は、ファイナンス、不動産投資等、企業法務全般。

2011年に長島・大野・常松法律事務所に入所、2017年に米国UCLAにてLL.M.を取得、2017年~2018年にロサンゼルスのスポーツエージェンシーにて勤務。日本スポーツ仲裁機構仲裁人・調停人候補者、日本プロ野球選手会公認選手代理人。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

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(ふぇるなんですなかじま・まりさ)

日本語・英語・スペイン語のトライリンガル弁護士(日本)。2018~2022年長島・大野・常松法律事務所所属、2022年7月からはスポーツ・エンターテインメント企業において企業内弁護士を務めながら、フェルナンデス中島法律事務所を開設。ライセンス、スポンサー、NFT、放映権を含むスポーツ・エンタメビジネス全般、スポーツガバナンスやコンプライアンスを含むスポーツ法務、企業法務、ファッション及びアート・ロー等を広く取り扱う。

 

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