SH4248 産業構造審議会知的財産分科会における他人の氏名を含む商標の登録要件緩和に関する議論 後藤未来/山中智代(2022/12/21)

取引法務特許・商標・意匠・著作権

産業構造審議会知的財産分科会における
他人の氏名を含む商標の登録要件緩和に関する議論

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 後 藤 未 来

弁護士 山 中 智 代

 

1 はじめに

 近年のさまざまな技術革新により、デジタルとリアルを融合した新領域でのビジネス創出の可能性が広がる一方、デジタル化・グローバル化の進展により日本企業をめぐる競争環境は厳しさを増している。特許庁は、そうした環境変化や新たな課題に対応した知的財産制度の改善等に向けて、2022年4月より、「政策推進懇談会」を立ち上げて、知的財産制度に関する諸課題について検討を行い、2022年6月に報告書をとりまとめた[1]。そこで示された知的財産政策に関する諸論点について、産業構造審議会知的財産分科会の各小委員会において議論することとされた。このうち、商標制度に関する各論点については、2022年9月以降、商標制度小委員会での議論が開始された。議論される論点としては、他人の氏名を含む商標、コンセント制度の導入、送達制度の見直し等が挙げられている。

 本稿では、上記のうち他人の氏名を含む商標の登録要件緩和(商標法4条1項8号参照)について、商標制度小委員会で開始された検討の現状を概観する。

 

2 他人の氏名を含む商標登録をめぐる現状と課題

 ファッション業界等において創業者やデザイナーの氏名をブランド名として採用する場合などに、その氏名を商標として登録するというニーズがある。これに対し、現行の商標法は、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」は商標登録を受けることができないと規定する(商標法4条1項8号)。近時、この規定の厳格な解釈傾向の下で、たとえば広く一般に知られたデザイナーの氏名等であっても、同名の他人の存在等により出願が拒絶されるといった事態が生じており(下表参照)、このような状況は、氏名からなるブランドの商標としての保護に欠けるといった指摘もなされている。

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(ごとう・みき)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。

 

(やまなか・ともよ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2018年神戸大学法学部卒業。2020年京都大学法科大学院卒業。2022年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

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アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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* 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用

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